「対馬海流に翻弄される知性 Intellect at the mercy of the Tsushima Current」

長尾秀美(元在日米海軍司令部渉外報道専門官・小説家)氏から 「対馬海流に翻弄される知性」 をいただきました。 日本語と英語版をご紹介します。

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2018/11/30 長尾秀美

対馬海流に翻弄される知性

対馬を挟み、九州西方から日本海に入る暖流を対馬海流と呼ぶ。黒潮の支流だ。

海流に乗れば、いずれ津軽海峡から太平洋へ出るが、現状では知性の行き先が見えない。誰もがこのままでは困ると思っているけれど、浮沈する知性が日本と韓国との大きな軋轢になっている。
知性とは本来分別力と想像力で成り立っている。ところが浮沈する知性は、はるか東のアメリカやカナダに広がり、南のオーストラリアや西のドイツなどにも到達している。

その元をたどると、故吉田清治氏や故千田夏光氏による証言や著作に行き着く。両氏がマスコミ受けを狙っただけかどうかは不明だが、公娼(慰安婦)の強制連行と朝鮮人労働者の強制徴用が事実だったという主張がまかり通るようになって久しい。残された資料の検証には通常知性を伴うが、この知性に限っては恣意的に利用されている。

その端的な例が、又、韓国最高裁判所で示された。11月29日、最高裁は、10月30日に下した新日鉄住金に対してと同じく、朝鮮人労働者が提訴し、高裁が下した損害賠償命令に対する三菱重工の上告を棄却した。
事がここまで来ると、司法の独立や国際法の遵守などは、現実世界とかけ離れた理念となり、日韓両国の軋轢は深まるだけだ。

本来の知性を働かせ、事態を打開するためには、原点に戻ることが望ましい。原点とは、日韓基本条約(及びそれに付随する日韓請求権並びに経済協力協定や議定書や交換公文)だ。条約調印は1965年6月22日だが、同条約締結のための第1次会談は1952年2月15日から始まった。

ここで日韓両政府に提案したい。議論をその日まで戻してはどうだろう。

そのために先ず現在の懸案事項を棚上げし、日韓両政府で調整委員会を設立する。同委員会は共通認識を持つために、これまでの「言った、言わなかった」、「した、しなかった」について、逐一事実を基に検証していく。そして今後10年を目途に、新日韓基本条約を策定する。そうすれば、知性は本来の姿を取り戻し、両国の老若男女は糊塗されない歴史を共有することができる。老爺心ながら付け加えると、新条約は、両国間の問題が不可逆的に解決されたことを明記する。

この委員会設置に画期的な勇気が必要となることは言うまでもないが、以後、対馬海流は穏やかに流れるだろう。

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2018/11/30 Hidemi Nagao

Intellect at the mercy of the Tsushima Current

A warm current that flows from western Kyushu by the Tsushima Island is called the Tsushima Current. It is a tributary of the Black Current.

Intellect has been at the mercy of this current for some time now because of high winds blowing from a direction. No one knows where it reaches although it would normally go through the Tsugaru Strait out to the Pacific Ocean. Quite a few people are concerned about this intellect going up and down in the waves, which has become a huge cold front in the Japan-South Korean relationships.

Exercising intellect consists of good judgement and imagination. But this tumbling intellect in the current has already reached not only the U.S. and Canada in the east but also Australia in the south and Germany in the west.

Why does it have that long reach? It is easy to get to where it started; the so-called witness statements made by and books written by the late Seiji Yoshida and the late Kako Senda. Though it remains unknown if they merely wanted to be in the media spotlight, what has spread thereafter as facts are that public prostitutes (comfort women) and Korean laborers of wartime had been forcibly requisitioned by the Japanese military/government. Intellect that must be exercised to verify each case has long been used in an arbitrary manner.

An eminent example was shown again on November 29 this year. The South Korean Supreme Court—as it did so against Nippon Steel & Sumitomo Metal Corporation on October 30—rendered a judgment to reject the appeal of Mitsubishi Heavy Industries in favor of the former Korean laborers.

Now that things have become out of control, judicial independence and observation of international law will become ideals that get divorced from the real world. Thus, the chasm between Japan and South Korea goes wider apart.

Intellect suggests both sides to return to the starting line for breakthrough of the situation. It is the Treaty on Basic Relations between Japan and the Republic of Korea (including agreements, protocols, and exchanged notes) that was at the beginning. The treaty was signed on June 22, 1965 but the first official talks began from February 15, 1952 between the two governments.

How about this proposal? The two governments will start discussions anew from Day One: They first establish a coordination committee, setting aside the pending problems for now; its members verify each case based on facts and scrutinize what they had said or had not said and what they had done or had not done, with a view toward building common perceptions. They will try to come up with a new treaty, say, within 10 years. Once intellect is exercised as it should be, all the people of the two nations can share history that is not filled with cover-ups. A friendly word of advice is to make sure the new treaty stipulates the bilateral problems hitherto have been irreversibly settled.

Epoch-making bravery is a must for this endeavor. Then the Tsushima Current will remain calm.

2 thoughts on “「対馬海流に翻弄される知性 Intellect at the mercy of the Tsushima Current」

  1. 774 says:

    今回の韓国の裁判所の判決は、というものだと理解しています。
    1951年7月にGHQが両国に働きかけ、10月に東京のGHQ本部でGHQ外交局長立会いの元で予備会談が開始されたこの交渉が14年も長引いたのはまさにこの併合が合法か違法かの主張の相違です。「すでに無効」という文言で決着し、白黒をつけなかったのです。日韓基本条約を白紙に戻して議論するとなると、再びこの問題の蒸し返しになり実に1951年から68年間同じ議論が続く事になります。
    この経緯については26年前に国会の議論をご覧ください。
    1993.3.23参議院予算委員会で次のような質問が出ました。
    「スイスの国際的な人権組織である国際和解団体が、一九六三年国連総会に提出された国際法委員会の報告をもとに、日本の韓国併合の足がかりとなった一九〇五年の保護条約、第二次日韓協約は無効であるという報告を提出いたしておりますが、このことについて政府の見解を求めます。」
    渡辺美智雄外務大臣がこう答えています。
    「これはいろいろ議論が私はあると思いますよ、率直に言ってね。
     日韓の新しい関係をつくろうというときも、これは十数年かかっているわけですから。で、もうお互いに主張が合わないと、その結果ある程度妥協といえば妥協ですが、今条約局長から説明があったように、向こう側は向こう側の言い分がある、こちらはこちらの言い分があるが、そこで過去のことを繰り返していろいろ言ったってまとまりゃせぬから、そこでこの協定ができた瞬間に、もはや今までの日本と韓国の間のいろんな条約とか協定はもう既に無効であるということを言ったわけですよ。既に無効。そのときからということであって、その辺が妥協の産物と言ってはしかられるかもしらぬが、そういうことで十数年の交渉に終止符を打ったという現実があるわけです。したがって、それを否定するというわけにもいかないですね、これは。
     ですから、いろいろ言えば先生のおっしゃることはごもっともだと私は思う点もありますし、いろいろありましょう。ありましょうが、そういうものを総合的に網羅した結果が新しい日韓関係のスタートでございますから、それをまたほごにしちゃう、やり直しというようなことをやったら、またこれ大変なことになってしまうので、我々としては新しい日韓関係というものをつくった日韓の協定、そういうものを基盤にして今後より一層の日韓友好を進めていくということが一番の私はいい方法じゃないか、そう思っております。」


    • 774 says:

      最初の一行の間が飛んでしまいました。
      というのが今回の判決と理解しています。


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