国連 女子差別撤廃委員会 参加報告 2024.10 山本優美子

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2024年11月2日
なでしこアクション代表、国際歴史論戦研究所 所長
山本優美子

女子差別撤廃委員会89セッションに参加して

 国連に大金を出して、いい子にしているのに難癖付けられて、伝統文化と国柄も家庭も壊される日本。そんな馬鹿げた関係から抜け出す最善の方法は、不要な条約を廃棄することだ。条約を締結していなければ、委員会から審査を受けることも余計な勧告を強いられることもない。法治国家の日本には国連様のお節介な審査と勧告は必要ない。自分の国のことは国民が決めれば良い。これがこの度の女子差別撤廃委員会(以下 委員会)に参加後の私の感想だ。

ジュネーブの国連において女子差別撤廃委員会89セッション(2024年10月7日~25日)が開催され、10月17日には対日本審査会が行われた。私は、2014年から幾つかの条約体委員会に参加してきた。女子差別撤廃委員会は2015年のプレセッション、2016年の対日審査会と、今回2024年の対日審査会でNGOとして活動した。その経験を踏まえて、次の二点を強く感じる。

一つ目は、「委員会の勧告を真に受けるな」。勧告には法的拘束力がないとは言え、憲法98条第二項には「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」とある。しかし、委員会は日本の伝統・文化・国柄を全く考慮せず、非常に偏ったNGOからの情報を受入れ、その真偽も検証せずに少人数のエキスパートと称する委員が極短期間で審査する。会期後に委員会が発表する総括所見の勧告は、リベラルフェミニスト思想の委員と日本の左派が意気投合した内容がそのまま反映されたものだ。そんな勧告を有難く受け入れる必要は全くない。勧告を受け入れないと「国際社会に後れをとる」などと言うのは、委員会の実態を知らない浅はかな意見だ

二つ目は、「女子差別撤廃条約は日本に必要ない」。1985年に日本が条約を批准してから40年経ち、今回が6回目の審査会であった。この条約を締結して委員会の審査を受けることによって、日本にとってどのようなプラス面、マイナス面があったかを検証すべきだ。私はマイナスが大きいので本条約は廃棄すべきと考える。仮にこの度の総括所見の勧告を全て履行したとしたら日本は日本でなくなってしまう。日本の国連分担金は米国、中国に次いで3番目に多い8%。2024年は約2.5億ドルおよそ375憶円だ。大金を出してまで日本の伝統文化、国柄、社会、家族が壊されるよう馬鹿なことがあってはならない。

女子差別撤廃委員会で扱う問題は様々あるが、今回協力団体と取り組んだ「慰安婦」、「夫婦別姓」、「皇室典範」、「北朝鮮による拉致問題」について、これまで委員会でどのように扱われてきたか、今回どう扱われたか、この度の総括所見の勧告について以下説明する。なお、「国連 女子差別撤廃委員会89セッション-対日本審査会 活動の記録と関連資料」も参考にされたい。

女子差別撤廃条約と日本
1979 国連総会採択
1981 発効
1985 日本批准
1988年2月 7セッション 一回目の対日審査 (第1回日本政府報告書)
1994年1月 13セッション 二回目の対日審査 (第2・3回日本政府報告書)
2003年6月 29セッション 三回目の対日審査 (第4・5回日本政府報告書)
2009年7月 44セッション 四回目の対日審査 (第6回日本政府報告書)
2016年7月 63セッション 五回目の対日審査 (第7・8回日本政府報告書)
2024年10月 89セッション 六回目の対日審査(第9回日本政府報告書)

慰安婦問題

慰安婦問題が委員会で取り上げられるのは、女子差別撤廃条約第六条「締約国は、あらゆる形態の女子の売買及び女子の売春からの搾取を禁止するための全ての適当な措置をとる」に当てはまると考えられているからだ。

委員会で初めて「慰安婦」が「第二次世界大戦中に日本人男性によって強制的に売春業をさせられた女性」として取り上げられたのが1994年1月に行われた13セッションだ。委員から「慰安婦のためにどのような施策をとるか」という質問対して、当時の日本政府は「日本政府は1991年から慰安婦について調査を開始し93年に結果を公開した」、「慰安婦になることを強制された結果、計り知れない苦痛と治らないほどの精神的・身体的な傷を負った全ての慰安婦の方々に心よりの謝罪を表明する」と回答している。1993年の調査結果では、強制連行を直接示すような記述は無かったのだが、その点には全く触れていない。当然委員は、日本軍はよっぽど酷いことをしたのだろう、日本政府も加害を認めたと理解したであろう。以降、委員会は戦時被害者の慰安婦への謝罪・賠償、加害者の告発、一般への教育などを勧告し、日本政府はひたすらアジア女性基金などの慰安婦への癒し金とお詫び取り組みを言い訳のように説明したきた。

2015年、私たちは準備セッションに参加した。そこで委員に「慰安婦は強制連行されていないし性奴隷でもない」と訴えた。その意見が反映し、委員会からの日本政府への事前質問リストに「慰安婦の強制連行の証拠はないという意見が最近あったが、これについて情報提供せよ」と記された。日本政府は政府報告書にてこの質問に回答する形で「日本軍と政府関係者により慰安婦の強制連行は如何なる文書においても確認できない」と回答した。この委員会で慰安婦についての事実関係を日本政府が表したのはこれが初めであった。

2016年に行われた対日審査会でも日本政府代表団長の杉山外務審議官(当時)が慰安婦の強制連行・20万人・性奴隷をきっぱりと否定した。2014年の自由権規約委員会対日審査会でも日本政府は性奴隷を否定したことがあったが、ここまではっきり事実関係を主張し、否定すべきことを明らかにしたのは安倍政権下だったからこそだ。

ところが、今回2024年の対日審査会では外務省はまた逆戻り。ひたすら謝罪とお詫びの取り組みの説明に終始した。散々悪うございましたと謝った最後に「女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードしていくとの決意がある」と述べたが、まったく説得力がない。

私たちは2014年から国連で慰安婦は性奴隷ではないと主張し続けてきた。今回の対日審査会には韓国の団体からも性奴隷を否定する意見書が提出されている。会期中のNGOが発言できる会合で私は「慰安婦は年季奉公契約で親も合意して働いた公娼のことで、強制連行や性奴隷ではないことは日米韓の研究者も認めていることです。元慰安婦は貧しさから働かざるを得なかった、でも(慰安婦について)根拠のない話を信じて日本を批判しないでください」と主張した。追加情報も提出している。民間として出来る限りの努力をしたが、一方で日本政府の今回の回答では、まるで梯子を外されたような虚しい気持ちになる。慰安婦が問題化したのは、そもそもは日本政府の最初の対応が悪かったからなのだ。

総括所見(CEDAW/C/JPN/CO/9)には慰安婦問題について次のことが書かれた。
パラグラフ34.

委員会は、ECOSOC採択決議1158(XLI)において国際法「戦争犯罪と人道への罪に期限がないという原則」を受け入れた事実を締約国が注意するよう喚起する。委員会は、前回の勧告(CEDAW/C/JPN/CO/7-8、パラ29)を想起し、締約国に対して「慰安婦」に関する国際人権法上の義務を効果的に履行する努力を拡大・強化し、被害者・生存者の権利に全体的に取り組むよう勧告する

パラグラフ38.(d)

教科書出版に関する政府ガイドラインが、「慰安婦」を含む女性の歴史的体験を教科書に適切に反映させ、歴史的事実を生徒や一般市民に客観的に示すようにし、すべての教育機関における教科書の正確性と標準化を確保するために、出版社がガイドラインをどの程度尊重しているかを監視すること

夫婦別姓問題

夫婦の姓は、女子差別撤廃条約第16条「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む)」に関係する問題だ。

1998年、日本が最初に審査を受けた時に早速、婚姻後の姓について委員から質問があった。
「日本の民法に、夫婦は婚姻の際に夫又は妻の氏を称するとあるが、実際はどちらの姓を選んでいるのか、統計はあるのか。子供が父または母の姓を選べる法律があるのか」
委員会は、当初から夫婦別姓と子どもの姓の選択を推進している。

その後、委員会は2003年の審査から日本の民法は差別的だとして婚姻最低年齢、離婚後の女性の再婚禁止期間、夫婦の氏の選択などに懸念を表明し、民法改正を勧告してきた。その影響もあって民法が改正され、平成28年に女性の再婚禁止期間が6か月から100日に短縮、平成30年に女性の婚姻最低年齢が16歳から18歳に引き上げられた。最近は、婚姻後に旧姓使用ができる幅が広がってはいるものの、この流れで行くと次は選択的夫婦別姓制度への民法改正へとなりかねない。

日本は婚姻の際に男性の姓を選ぶ人が多い。無理やりそうさせられるからではなく、そうしたいから選択しているのだ。旧姓使用の方が都合いいのは婚姻後しばらくの間のことで、子どもが誕生し、家族としての社会生活の方が長くなってくると旧姓使用は必要がなくなるのが普通だと私は思う。LGBT理解促進法のように、選択的夫婦別姓も一部の活動家によってメディアや政治家が利用され、いかにも重大問題のように騒がれている。しかし、少なくとも私の生活圏のごく普通の人の間では選択的夫婦別姓に関心のある人は皆無だ。

令和4年3月に行われた法務省民事局による夫婦の名字に関する世論調査では選択的夫婦別姓制度の導入に賛成する割合は3割にも満たない。NHK放送文化研究所が中高生を対象に令和4年に実施した調査では、結婚後に夫婦別姓を望む回答はわずか7%だ。子どもたちは家族内の別姓を望んでいないのだ。当然に思う。

また、夫婦の別姓が認められれば、家族の名称としての戸籍は喪失され、それに伴い戸籍が果たした国籍証明、出産、死亡、婚姻証明といった役割も消滅する。子供の成長に最も大切な家族の繋がりを壊し、戸籍制度を崩壊させてまで、勧告に従う意味が一体どこにあるというのだ。

総括所見(CEDAW/C/JPN/CO/9)には選択的夫婦別姓について次のことが書かれた。
パラグラフ11. (a)

実質女性が夫の姓を強要されている、夫婦同一姓を義務とする民法750条を見直す措置がとられていない

パラグラフ12.(a)

婚姻後も女性が旧姓を維持できるように、夫婦が姓を選択できるよう法改正せよ

皇室典範

皇室典範は女子差別撤廃条約の第1条「女子に対する差別とは・・・いかなる分野においても、女子が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう」、第2条「男女の平等の原則が自国の憲法その他の適当な法令に組み入れられていない場合はこれを定め、かつ、男女の平等の原則の実際的な実現を法律その他の適当な手段により確保すること」の問題として扱われている

1985(昭和60)年、日本政府が女子差別撤廃条約を締結する前に国会で審議があった。5月29日、第102回衆議院外務委員会 「議案 女子差別撤廃条約の締結について承認を求めるの件」である。当時の安倍晋太郎外相は条約と皇室典範との関係について次のように述べている。
「この(女子差別撤廃)条約との関係でいきますと、皇位継承資格が男系の男子の皇族に限られていることは、本条約第一条に定義されているところの女子に対する差別には該当しない。したがって、これは条約の対象にはならない、こういうふうに理解をしております。
と申しますのは、本条約に言うところの女子に対する差別とは、性に基づく区別等によりまして女子の基本的自由及び人権を侵害することを指すわけです。ここでいう人権及び基本的自由とは、いわゆる基本的人権を意味するわけでありますが、皇位につく資格は基本的人権に含まれているものではないので、皇位継承資格が男系男子の皇族に限定されておりましても、女子の基本的人権が侵害されることにはならない。したがって、本条約が撤廃の対象としている差別にも該当しない、こういうことでございます。これは日本の皇室だけじゃございませんで、諸外国の皇室の中におきましても、あるいは王室の中におきましても、皇位継承資格が男系男子に限るということが決められておる例が先進国の中でも随分見られておることは、ご承知のとおりであります。」
日本政府は当時から、条約と皇室典範の関係について、疑問の出る可能性があったことを認識していたのだろう。今となっては考えが甘かったといえる。

2001年に愛子内親王が誕生された。対日審査会で初めて皇室についての質問が出たのが2003年フィリピンのマナロ委員からだ。
「皇室と日本政府は、プリンセス愛子が女性天皇になるように法を改正することを検討したことがありますか?」
日本政府はこう答えた。
「皇室典範では皇位継承は男子のみです。一方、天照大御神は皇室の祖先であり、日本の歴史には7人の女系天皇がいました。しかしながら、プリンセス愛子が女性天皇になる可能性はありません。」
この時の総括所見には、皇室典範については取り上げられなかった。

2016年に行われた対日審査会では、議場では皇室問題は一切出てこなかった。ところが総括所見に「皇位継承権が男系男子の皇族だけにあるのは女性差別」という勧告が盛り込まれそうになった。審査会で一言も話し合われていない問題が総括所見に書かれるのは手続き上の問題があるという理由で、日本政府からの抗議もありこの時は発表前に削除された。

ところが、不意打ちが起こった。2020年3月9日付で委員会が発表した「日本政府への事前質問リスト(CEDAW/C/JPN/QPR/9)」に次の質問事項が記された。
「皇室典範について、現在は皇位継承から女性を除外するという決まりがあるが、女性の皇位継承が可能になることを想定した措置についての詳細を説明せよ。」

なぜ突然このような質問が出てきたのか。委員会は事前質問リストを作成するにあたってその前にNGOから意見や情報提供を受け付ける。その中に「公益社団法人 自由人権協会 」が皇室典範について意見書を送っていたのだ。その内容は「日本の皇室典範が天皇となりうる者を皇統に属する男系男子にしか認めないのは、女子差別撤廃条約の差別の定義に該当する」、「このような法の規定は性差別主義に根ざすものであり、日本社会における女性に対する差別を助長するものである」、「女子差別撤廃委員会で取り上げるべき問題である」というものだ。この意見書は締め切りが過ぎてから提出されたもので、他にも様々なテーマで多くのNGO意見書が提出されていたこともあって、普通であれば無視されてもおかしくない。ところが兼ねてから皇室問題を扱いたかった委員にとっては好都合。この意見書を受けて、皇室典範について事前質問リストに入れたのだと私は見ている。事前質問リストは議場で話し合われなくても、委員が入れたい問題であれば入れることが出来る。

正式に事前質問リストに入ってしまった「皇室典範女性差別問題」に対して、日本政府はまずは報告書で回答せねばならない。2021年9月、日本政府はその第9回報告書(CEDAW/C/JPN/9)で次のように回答した。「我が国の皇室制度も諸外国の王室制度も、それぞれの国の歴史や伝統を背景に、国民の支持を得て今日に至っているものであり、皇室典範に定める我が国の皇位継承の在り方は、国家の基本に関わる事項である。女性に対する差別の撤廃を目的とする本条約の趣旨に照らし、委員会が我が国の皇室典範について取り上げることは適当ではない。」
当然の回答である。

この流れで、2024年10月にジュネーブで行われる委員会89セッションの対日審査会においても、皇室典範問題が扱われることになる。委員らは、日本の皇室について理解していないのは明らかだ。そこで、私たちと協力関係にある「皇統を守る国民連合の会」(葛城奈海会長)が対委員会活動に取り組むこととなった。事前に意見書を提出し、ジュネーブで会議に参加し、NGOとして発言、追加意見書も送付。日本の皇室と男系男子の伝統について丁寧に説明した美しいパンフレットも用意し、委員たちに直接手渡し説明もした。出来る限りの努力をした。

10月17日の対日審査会では、皇室典範についてのキューバのMs. Yamila González Ferrer委員から質問があった。
「憲法第一条において天皇というのが日本の象徴であり、日本国民をユナイトするものであると記載があります。こちらの法律の宗教面また文化的文脈については既に締約国から報告がありますが、この女性差別撤廃条約で保障されている平等の原則に基づき、憲法そして並びに条約で求められる男女の平等を是非確保するための法改正などについて検討されることをお願いいたします。」

日本政府は内閣官房が回答した。
「我が国の皇室制度も諸外国の王室制度もそれぞれの国の歴史と伝統を背景に国民の支持を得て今日にいたっているものでございます。皇室典範に定める我が国の皇位継承のあり方は国家の基本に関わる事項でございます。女性に対する差別の撤廃を目的とする本条約の趣旨に照らし、委員会が我が国の皇室典範について取り上げることは適当ではない、ということを申し上げて答えといたします。」
当然の内容ではあるが、いつも弱腰の日本政府としては毅然とした回答であった。我々は思わず拍手した。

ところがこの回答の直後、本来なら意見を言うべきではない委員長兼議長であるスペインのMs. Ana Peláez Narváez委員がまるで反論するかのように次のように述べたのだ。
「委員会としましては、・・男女の平等について特に関連した場合に、皇位継承に関してのその男女平等というところで委員会として質問をしております。これは日本だけでなくすべてのそのような差別的な法律がある国に対しては同様の質問をしております。私自身の国、スペインもそのうちの一つです。従ってこのトピックは直接的に関係のあるもの女子差別撤廃委員会に関係のあるものとだと申し上げたいと思います。従ってこの文脈の中での質問ですし、委員会として適切な質問だというふうに思っております。」
ここで我々以外の日本人NGOから拍手が起こった。そこにいた日本人は私たち以外、皇室典範男系男子の改正を支持する日本人だったのだ。

スペインの王室も諸外国の王室も日本の皇室も皆一緒くたにして高慢な態度で男女同じを押し付ける。委員会は、日本の伝統文化、国柄への理解も尊敬もないことがこれで明白となった。これまで、余計な勧告を多く発してきたが、今回ほど日本に対して侮辱的な勧告はない。日本人も日本政府ももっと怒るべきだ。専門家と称する数名の委員が作文した勧告に皇室典範まで振り回されることはあってはならないことだ。この非常識な勧告だけをもって条約を廃棄する理由は充分ある。

実は今回の委員会ではサウジアラビアも審査対象であった。同国は1992年に統治基本法(Basic Law of Governance)を制定し、その第五条で「王国の統治は、建国の父アブドルアジーズ・ビン・アブドッラハマーン・アルファイサイル・アールサウードの息子およびその孫に委ねられるものとする。」と定めている。「男系の子孫」が継承するということだ。ところが、委員会はサウジアラビアに対しては第五条の改正を勧告していない。日本の皇室典範だけが女性差別だというのか。ダブルスタンダードだ。

総括所見(CEDAW/C/JPN/CO/9)には皇室典範について次のことが書かれた。
パラグラフ11.

日本の皇室典範の規定は委員会の権限の範囲外であるという締約国の立場に留意する。しかしながら、委員会は、皇統に属する男系の男子のみが皇位を継承することを認めることは、条約第1条および第2条と両立せず、条約の目的および趣旨に反すると考える。

パラグラフ12.

委員会は締約国に、皇位継承法を男女平等を確保するように改正した他締約国の良い取組に注目し、皇位継承に男女平等を保障するよう皇室典範の改正することを締約国に勧告する。

北朝鮮による拉致問題

女子差別撤廃委員会で今回初めて北朝鮮による拉致問題に取り組んだ。特定失踪者問題家族会に相談し、是非やってみましょうということになった。

特定失踪者には若い女性が多い。特定失踪者問題調査会の2018年の調査では、名前を公開している北朝鮮による拉致・失踪日本人は546人。そのうち151人が女性で、90%が10代から30代の少女と若い女性なのだ。北朝鮮が若い女性を拉致する目的は、彼女らを男性拉致被害者や北朝鮮高官と結婚させるためと被害者家族の方々は見ている。北朝鮮の元スパイによる、女性の拉致被害者は意に反して結婚させられていたとの証言もある。拉致自体も重大な人権侵害だが、拒否できない立場で強制的に結婚させられるというのも女性に対する重大な人権侵害である。

実は私たちはこれまで二回、委員会に北朝鮮による日本人拉致問題を訴えたことがある。
・自由権規約委員会136セッション(2022年10月10日-11月4日)対日審査会
・自由権規約委員会131セッション(2021年3月1日-26日)対北朝鮮 質問事項準備会

これらの委員会に意見書を提出して訴えたが、委員会の総括所見や質問事項に影響を及ぼすことはできなかった。

やはり、被害者やその関係者が訴える方が効果があると思い、特定失踪者問題家族会の方々と相談して意見書を作成し、事前に委員会に提出した。会期中のNGOと委員の会合においてはビデオメッセージを用意し、家族会事務局長の竹下珠路さんの訴えが上映された。「私の妹は18歳の時、突然いなくなりました。20年以上も経ってから北朝鮮に拉致されたことがわかりました。妹は今69歳になります。私たちが生きている間に会いたいです。日本政府は直ちに全ての拉致被害者を救出して下さい。ありがとうございました。」
現地では書面での追加情報、委員へのチラシの配布も行った。

出来る限りの努力は試みたが、これまでの委員会と同様に総括所見で拉致問題は扱われなかった。ただ、委員たちには拉致問題が存在することは伝わったはずだ。

日本の所謂左派NGOは在日朝鮮人が日本で差別されているという訴えには力を入れるが、拉致問題を扱うことはない。それどころか、今回は拉致問題を「右派」が扱う問題として、私たちを避けようとする様子が見られた。委員会はマイノリティ女性問題として在日問題を扱うなら、最も重要な人権問題である日本女性拉致問題を取り上げるべきだ。

諦めずに次回は強制失踪委員会にも訴えようと考えている。付け加えると日本政府は拉致問題解決にむけて強制失踪委員会におよそ1億円を寄付したが、2018年に行われた第一回対日審査会後の総括所見には拉致問題が全く触れられなかった。それは当然で、委員会に拉致問題を訴えたNGOがいなかったからである。それどころか慰安婦の赤ちゃんが拉致されたなどというとんでもない話を訴えたNGOの話を真に受けて、強制失踪委員会は総括所見で「事実解明と責任者の処罰」、「慰安婦やその子供の失踪について、遅滞なく完全な調査を行うべき」というトンチンカンな馬鹿げた勧告を発表した。このことだけでも条約体委員会の勧告など真に受けられないことが分かるだろう。

女子差別撤廃委員会 審査システム

最後に委員会の審査について説明したい。国連の人権条約に基づく委員会で日本が審査を受けている委員会は八つあり、女子差別撤廃委員会もその一つである。会期は年三回。一つの国についての審査会は、数年ごとに行われる。今回の女子差別撤廃委員会の対日審査会は2016年以来8年振りであった。

審査会というのは、条約を批准した国の「政府報告書」をもとに政府代表団と委員が対面で対話(dialogue)する会議のことをいう。審査会では条約の履行状況について、委員から質問、政府代表が回答、委員から追加質問の順で進行される。一つの国の審査会議は会期中の一日(午前・午後)のみ。会期直後に委員会から「総括所見(concluding observations)」が発表され、そこには審査対象国政府への様々な勧告(recommendation)が記される。数年後の次の審査会では、その勧告の履行状況が審査されることとなる。

今回の女子差別撤廃委員会89セッションでは3週間の会期中にベニン、カナダ、チリ、キューバ、日本、ラオス、ニュージーランド、サウジアラビアの8つの国が審査対象国となった。委員は会期中にジュネーブに集まる。エキスパートと称される23名の委員は世界各国から選ばれた有識者だが、自国の人権状況の方をよっぽど心配した方が良いような国の出身者も多い。日本人の委員もいるが、対日本審査には加わらない。会期中は、事前に提出された100以上のNGO意見書に目を通し、NGOとの会合に参加し、8か国の審査会議を行い、総括所見を作成する。かなり過密なスケジュールと推察する。従ってある国のある問題について、丁寧に時間をかけて調べることは不可能だ。委員の中で担当する国も決まっている。一握りの委員らが短期間で作文したのが勧告の実態である。「国連からの勧告」というほどのもでもなく、「世界の流れ」でもなく「国際社会が求めている」ものでもない。

対国連活動に取り組むNGOは所謂リベラル左派団体で、委員たち自身もリベラル、フェミニスト思想。当然、総括所見も勧告も彼らの色に染められた内容となる。日本審査に向けて提出されるNGO意見書の数は他国に比べて断然多く、今回も44の意見書が提出されていた。このうち10は我々側の意見書である。対日審査会に参加していたNGOの人数は会議室の希望からすると100名近くはいた。そのうち12名が我々の仲間であるが、単純にリベラルと保守の割合に大きな差があるのがお分かりいただけると思う。これも前々回までは保守系がゼロであった。

最後に

「国連の勧告を信用するな」、「条約は廃棄」と訴えたいと同時に、やはり出来るだけ多くの人にジュネーブの会議室の中に入ってそこの独特の空気の中で何が起こっているかを見て体感していただきたい。その空気が日本を覆って、一般の感覚からかけ離れたおかしな法や条例に形を変えて、私たち日本人の平穏な社会、安心できる生活や暖かい家庭を壊そうとするのを止めたい。わざわざ自腹を切って遠くまで行ってそんなことする人は物好きと言われるかもしれないが、誰かがやらなくては、または伝えなくてはならないと実行してきた。幸い協力できる仲間も、応援して下さる方もいる。結果がでるかは分からないが、誇れる日本を次の世代に繋げる努力だけは続けたいと思っている。

以上

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