国連強制失踪委は本気で日本に勧告したのか?

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2020年4月
長尾秀美(元在日米海軍司令部渉外報道専門官、小説家、ノンフィクション作家)

 国連強制失踪委は本気で日本に勧告したのか?

1.皆さんは、2018年11月19日に国連強制失踪委員会が日本に対して提示した勧告(CED/C/JPN/CO/1)のことを覚えておられるでしょうか。

2.なでしこアクションの2018年11月21日付けホームページには以下の書き込みがあります。

「委員会に慰安婦問題を持ち込んだのは、日弁連女たちの戦争と平和資料館(WAM)、挺身隊問題対策協議会(*現在の正義連)です。この3団体が委員会に事前に慰安婦問題についてNGO意見書を出していました。これらのNGOの意見書や委員会への働きかけで今回の勧告になったと思われます。」

3.2018年7月12日付け意見書は慰安婦問題に関し、以下の提言をしています。

(1)公的な職にある者や指導的立場にある者が,「慰安婦」に対して行われた侵害に対する締約国の責任に関して軽率な発言をやめることを,確実にすべきである。

(2) 2015年12月の日韓合意の発表に対し,女性差別撤廃委員会が「被害者中心のアプローチを十分に取らなかったこと」を遺憾とし,「被害者の救済への権利を認め,補償,満足,公的謝罪,リハビリテーションのための措置を含む十分かつ効果的な救済及び賠償を提供すること」と勧告した総括所見を謙虚に受け止め,締約国は,被害者の思いに配慮しながら,誠実にこの問題に取り組むべきである。

4.最終的に強制失踪委員会が採択した勧告のうち慰安婦問題に関する事項は第25-26段落で、第26段落には以下のように書いてあります。

(b)事案発生時から経過した時間にかかわらず、又、正式な申し立てがなされていないとしても、それらの女性から産まれた児童の奪取を含め、強制失踪の対象とされた可能性のあるいわゆる「慰安婦」すべての事案が、徹底的かつ公平に遅滞なく調査されることを確保すること。

(c)容疑者が訴追され、かつ有罪と判断される場合、その行為の重大性に従って、処罰されることを確保すること。

5.この勧告は、強制失踪防止条約(強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約)に基づいています。同条約は2006年12月20日の第61回国連総会で採択され、2010年12月23日に発効しました。日本は当初から同条約に加盟していますが、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドなどは加盟していません。もちろん中国、ロシア、北朝鮮、韓国、イランも加盟していません。

6.そもそも、同条約に加盟していない韓国の正義連が提出者の一員として名を連ねているのは不合理だと思いませんか。「私たちは条約に拘束されないけれど、あなたたちは条約に加盟しているのだから、勧告を実行しなさい」と言っているのです。

7.それはともかく、日本政府が「徹底的な調査」をし、「加害者の厳重処罰」をすることになれば、非常に面倒なことが韓国と日本の間で表面化します。その度合いは韓国側の方がより大きいのです。

7.1.2017年、アーチ―・ミヤモト元米陸軍中佐(Archie Miyamoto)は 『Wartime Military Records on Comfort Women』(仮訳:慰安婦に関する戦時軍事記録)をアマゾンから出版しています。彼は外務省が保存している領事館報告書を読み、以下のように書いています(37-39ページ)。(注:筆者による翻訳)

(1) これらの報告書は、中国の各都市にいた朝鮮人や台湾人を日本人の同胞として記述している。さらに多くの慰安所が朝鮮人によって経営されていたことを具体的に証明している。この事実は朝鮮や日本ではあまり知られていない。

(2) 朝鮮人はいろいろな職業に従事していて、慰安所経営はその一つに過ぎなかった。慰安所は軍隊や軍属によって経営されてはいなかった。売春は合法で、慰安所経営も合法的職業だった。彼らの職業は写真屋、小売業、食堂、運輸業、貿易、薬屋など多岐にわたっていた。

(3)  慰安所を経営した朝鮮人は、多くの場合、女や子供を連れて来ていた。つまり家族単位で慰安所を経営していた。これは日本陸軍に所属する単身赴任や独身の男が経営していなかったことを証明する。日本人が経営する慰安所についても業態は同じだった。

(4) すべての報告書が、日本人が経営する慰安所には日本人慰安婦がいて、朝鮮人が経営する慰安所には朝鮮人慰安婦がいたと記述している。日本人経営者が朝鮮人慰安婦を雇ったという報告書は皆無だ。異なる時期に書かれた同じ町に関する報告書も多々あるが、記述に違いは見られない。

7.2.ミヤモト氏はその具体例として、中国本土3カ所に関する以下の報告書を抜き出しています。

(1) 九江、領事館報告書第561号、1938年11月8日
日本人職業

慰安所 15軒
日本人経営者 男42名、女25名、子女1名
日本人慰安婦 107名

朝鮮人職業

慰安所 9軒
朝鮮人経営者 男26名、女8名、子女3名
朝鮮人慰安婦 143名

(2) 南昌、領事館報告書第217号、1939年8月9日
日本人職業

慰安所 3軒
日本人経営者 男5名、女3名
日本人慰安婦 8名

朝鮮人職業

慰安所 8軒
朝鮮人経営者 男19名、女9名
朝鮮人慰安婦 94名

(3) 巣湖、領事館報告書第170号、1939年8月2日
日本人職業

慰安所 4軒
日本人経営者及び日本人慰安婦 男10名、女31名、子女2名

朝鮮人職業

慰安所 2軒
朝鮮人経営者及び朝鮮人慰安婦 男2名、女30名、子女1名

7.3.上記報告書によれば、64名内外の朝鮮人経営者およびその家族が19軒の慰安所で260名ほどの朝鮮人慰安婦を雇っていたことになります。その260名の慰安婦のうち何名かが強制失踪の被害者だったとすれば、処罰しなければならない「加害者」とは誰になるのでしょうか。日本政府が今になって彼らを訴追・処罰できるのでしょうか。韓国政府は日本政府と協力し、正義を追及できるのでしょうか。

8.1998年のマクドゥーガル報告書は、「軍と政府の両方が直接アジア中のレイプセンターの設立に関わり、20万人以上のアジア女性を強制的に性奴隷にし、その多くが11〜20歳であり、彼女たちは毎日数回強制的にレイプされ、厳しい肉体的虐待にさらされ、性病をうつすなどの虐待を受け、生き延びたのは25%だった。日本軍は慰安婦を確保するために暴力や誘拐や強制や欺罔という手段を駆使した」と書いています。

9.韓国が主張するように20万人の朝鮮人女性が強制されて慰安婦となっていたならば、そしてその25%となる5万人しか戦中を生き延びなかったとすれば、残りの15万人が失踪したことになります。その失踪原因(病気、虐待による殺人、逃亡)が何であれ、彼女たちを管理していたのは朝鮮人経営者だったはずです。朴裕河教授は著書『帝国の慰安婦』113ページで、「慰安婦たちの身体に残る傷は、単に軍人によるものだけではない。監禁、強制労働、暴行による心身の傷を作ったのは業者たちでもあった」と述べています。彼女が触れている業者とは悪質な慰安所経営者のことです。

10.補足ですが、台湾の台北市内(現在の万華区)にあった遊郭について、橋谷弘教授は著書『帝国日本と植民地都市』96ページで以下のように記述しています。日本人や台湾人が下記3軒の妓楼を運営していたとは想像できません。

「1940年には妓楼が25軒あって、220人の娼妓を置いて営業していた。興味深いのは、娼妓のなかに朝鮮人が2割、42人も含まれていたことである。その具体的な背景はわからないが、妓楼のなかに朝鮮楼、新朝鮮楼、半島楼などの名前がみえる。」

11.意見書を受け取った国連強制失踪委員会は、本気で日本に加害者を処罰させようとしたのでしょうか。韓国がまだ条約加盟国でないことを知った上で勧告を採択したのでしょうか。

12.なお、ここでは強制失踪防止条約第35条と国連強制失踪委員会の勧告に対する疑義(意図的な解釈)については触れません。第35条の規定を常識的に解釈すれば、同委員会の勧告がこじつけでしかないと判断されるでしょう。

第1項 委員会は、この条約の効力発生後に開始された強制失踪についてのみ権限を有する。

第2項 この条約の効力発生後にいずれかの国が締約国となる場合には、委員会に対して当該国が負う義務は、この条約が当該国について効力を生じた後に開始された強制失踪に関するものに限る。

13.最後になりますが、朝鮮戦争中に韓国軍慰安所で働き、第五補給品や洋公主と呼ばれた韓国人女性や、ベトナム戦争中に韓国軍慰安所で働いたベトナム人女性が誰一人失踪しなかったことを願っています。なお、崔吉城教授は著書『朝鮮戦争で生まれた米軍慰安婦の真実』46-86ページで、自らの戦争体験を語り、「中国人民解放軍兵士は地元女性を強姦しなかったが、国連軍兵士は慰安所が設置されるまで地元女性を強姦した」と書いています。

2020年4月6日、エリザベス2世英国女王は、コロナウィルスに立ち向かう国民に対し、次のように述べています。
「私たちが何者かという誇りは、過去の一部ではなく、現在と将来を決める」

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