長尾秀美氏(元在日米海軍司令部渉外報道専門官、小説家、ノンフィクション作家)より論考「正義連騒動の展開」をいただきましたので、ご紹介します。
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【 原文英語/English 】
令和2年(2020年)6月4日
長尾秀美(元在日米海軍司令部渉外報道専門官、小説家、ノンフィクション作家)
正義連騒動の展開
5月7日、自称元慰安婦の李容洙が韓国の大邱で正義連(旧挺対協)および尹美香前代表を公に非難した。以来、抗議の声が各方面から上がり、韓国内は蜂の巣をつついたようになっている。この正義連騒動の今後について、私見を述べたい。尚、個人の敬称は省略する。
1.騒動の限界
1.1. 慰安婦の定義に疑義があることはさて置き、韓国内や海外に建てられた慰安婦碑・像は、日本軍による戦地での慰安婦利用を象徴している。したがって、正義連が否定され、解散しても、韓国民にとって碑や像の存在意義は失われない。
1.2. 慰安婦支援団体については1990年に設立された挺対協が嚆矢となるが、韓国民にとってその存在意義は大きい。したがって、慰安婦に関する反日運動が終息することはない。
1.3. 正義連の活動費の大部分は一般からの寄付金によって賄われていたようだ。したがって、検察側は不正経理による横領や背任などについて正義連の捜査を進める。今後は尹美香や経理担当者および彼女の親族のみを矢面に立たせ、事態を収束させることが予想される。
1.4. 慰安婦を性奴隷(sexual slave)だと呼び始めたのは、戸塚悦朗だと言われている。彼は1992年に国連で使っている。正義連はその英語名称に慰安婦(Comfort Women)ではなく(Sexual Slavery)を使用している。どちらによる造語なのかは断定できないが、慰安婦を公娼(認定売春婦)ではなく性奴隷と同視する考え方は1990年代半ばには定着した。ところが李容洙元慰安婦は5月25日に開いた記者会見の場で、性奴隷という呼称のおぞましさを嘆いた。事情がやや変化した。韓国外交部(外務省)は英語のホームページでComfort WomenではなくSexual Slaveryを使用している。したがって、同国が国連の各委員会に対し、その呼称の訂正を求めるとは考えられない。被害者中心主義を唱えるとしても、性奴隷という呼称に勝る言葉がないからだ。
1.5. この騒動が終息しても、上記のとおり、慰安婦問題に関する環境が劇的に変化するとは考えられない。とは言え、1つ提案したいことがある。正義連は慰安婦問題を女性の人権侵害として捉え、日本を糾弾してきた。女性の人権尊重を掲げるなら、朝鮮戦争中の第5補給品や洋公主およびベトナム戦争中の韓国軍慰安所およびライダイハンの母をもその名称に含めるのが本筋だ。正義連解散後に有志が新しい団体を設立させるなら、次の名称を推奨したい。ただし、それには国民の勇気が必要となる。
女性問題解決のための日本軍、韓国軍、国連軍、ベトナム孤児正義記憶同盟
2. 公的慰安婦支援機関の設立
2.1. 正義連への信頼が地に落ちたことから、韓国政府はこれを好機とし、支援機関を新たに設立し、管理していくことが想定される。ここではその機関を仮に慰安婦支援庁とする。この支援庁は慰安婦の存在を外交問題として捉えれば外交部に、社会的保護の問題として捉えれば保健福祉部に、女性の権利促進の問題として捉えれば女性家族部に所属することになるだろう。
2.2. 支援庁は慰安婦が何を望んでいるのかを明確に把握しなければならない。 彼女たちが慰労金などの受け取りのみを望むなら、慰安婦およびその遺族への慰労金支給が終了した段階で支援庁の役目は終わる。
2.3. 一方、彼女たちが日本政府から明示的な国家責任認定を引き出すことを望むなら、2つの状況が想定される。
2.3.1. 日本政府は、加藤談話、河野談話、アジア女性基金、2015年の日韓合意を持ち出し、慰安婦問題を韓国内で処理するべきだと主張するだろう。日本政府は譲歩しないだろうから、日本政府が拠出した「和解・癒やし財団」への10億円は宙に浮く。慰安婦問題は事実上未解決となるだろう。
2.3.2. 彼女たちが妥協案を出すとすれば、その案は、慰労金を受け取った上で、韓国政府が日本政府への働き掛けを恒常的に続けるという誓約をすることになるだろう。
3. 韓国の日本に対する恨(ハン)
3.1. 現状を考慮した上で日本が蔑ろにしてはならないことが3つある。最初の2つは、千英宇(チョン・ヨンウ)韓半島未来フォーラム理事長・元外交安保首席(李明博政権で大統領外交安保首席秘書官)が述べた韓国人の日本に対する恨(注1)だ。彼は5月24日配信の朝鮮日報日本語版で以下の2点を強調している。
3.1.1. 方々に少女像を立て、慰安婦被害者らが全て亡くなった後も日本の蛮行を反すうすることは、歴史教育の観点からも必要だ。
3.1.2. 日本に対する復讐はいくらやっても足りないが、過去に限りなく埋没して韓国がこれ以上壊れる必要はない。反日も重要だが、韓国にはそれより大切な価値もある。日本に対する道徳的優位を喪失したら、克日はさらに遠のくという国民の実態を忘れてはならない。
3.2.もう一つ蔑ろにできないのは李容洙が5月25日の記者会見で述べたことだ。5月26日配信の朝鮮日報日本語版によれば、彼女は、「(慰安婦)運動の方式を変えようというのであって、やめようというのではない」としつつ「日本は千年たとうと万年たとうと、慰安婦問題について謝罪すべき」と語った。続いて「結局は韓日両国の学生が歴史の主人であって、慰安婦問題を解決してくれる人々」だとし「両国の学生に正しく歴史教育をして、互いに交流するようにしなければならない」と語った。彼女の言葉は、千英宇氏が述べた恨と同根だ。
3.3. 日本人なら、李容洙と千英宇の言葉の背景に1910年の日韓併合があることは自明だ。ここで帝国主義時代の宗主国と植民地の例を持ち出しても、韓国民には通じない。アジアの歴史を振り返れば、イギリスとインド、フランスとインドシナ、オランダとインドネシア、アメリカとフィリピンの現状はどうなっているのか。そんなことは無関係なのだ。したがって、李王朝時代より韓半島で厳然たる権威の象徴だった両班の存在を持ち出し、日韓併合時に彼らが何をしたのか、何をしなかったのかを問いただしても意味がない。
4. 日本は何をどうするべきか
4.1. ジャーナリストでコリア・レポート編集長の辺真一氏は、5月27日、 「元慰安婦の「爆弾発言」は安倍政権にはプラス! その5つの理由」を列挙している。要点は以下の通りだ。
プラス1.「挺対協」の正当性を否定したこと。
プラス2.「挺対協」の「慰安婦証言集」を問題にしたこと。
プラス3.「水曜集会」を止めるように訴えたこと。
プラス4.「性奴隷」という表現を使わないよう求めたこと。
プラス5.国会議員になった尹美香前理事長の発言力が低下すること。
4.2. 繰り返すようだが、日本政府は慰安婦問題に関し、1992年と1993年に加藤談話と河野談話をそれぞれ発表し、1994年にアジア女性基金を設立し、1995年に村山談話を出し、2015年に日韓合意を成立させた。国連の各委員会が過去何をどう言い、将来何をどう言おうとも、これらは歴史的事実で、日本政府が真摯にこの問題に取り組んだ証拠だ。
4.3. 一方、韓国と国連の各委員会は、慰安婦問題を今日的な女性人権侵害として捉えるだけだ。したがって、彼らは1932年から1945年まで日本軍が利用した慰安婦制度を社会的にも法律的にも検証していない。日韓併合に至るまでの極東の地政学的分析もしていない。過去の経緯を精査しない議論は無責任としか言い得ない。各委員会の役目は、提出された意見に対する勧告を当事国に出すだけなので、各委員の見識を云々することは妥当ではない。彼らはたまたまその場にいて、文筆家として議論らしいことをすれば役目を果たすことができるからだ。当事者でない彼らにそれ以上のことは期待できない。
4.4.最後に李容洙が唱えた「韓日両国の学生に対する正しい歴史教育とお互いの交流」に触れる。同じ資料を韓日両国の学生に提示しても、慰安婦問題解決を望むことはできないだろう。なぜなら両論を並立させ、それぞれを検討し、合理的な判断を求めることができないからだ。ただし、こうした繋がりに1つだけ希望を見出すことは可能だ。それは最終的な判断をしないという前提でのみ可能となる。つまり、韓日の学生が両論併記を歴史的考察の結果として受け入れることだ。
4.5. 日本政府は事態の推移を見守るしかない。
注1:日本人が使う恨みは、他人に対する憤りや憎しみを表す感情だ。一方、恨は、朝鮮文化においての思考様式の一つで、感情的なしこりや、痛恨、悲哀を指す朝鮮語の概念とされているが、近代まで人口に膾炙(かいしゃ)されていなかった。ロビンソン大学のマイケル・シンによれば、恨はジェームズ・ゲイルが1897年に編纂した韓英辞書に掲載されていなかった言葉だ。彼は恨を否定的な感情という範疇に入れ、集団的同一性を喪失したことによる心理的抑圧から生じる複雑な感情が特徴だと定義している(Wikipedia -ja.wikipedia.org/wiki/恨、2020年5月30日閲覧)。特派員としての経験も長く、韓国語が堪能な報道関係者は、恨を人や組織に理想が裏切られたことから生まれる感情で、恨が消えることはないと言っている。
以上
お願い、
現在、ドイツのベルリンで韓国の市民団体による「慰安婦像」が設置されようとしています。残念ながら、形勢は彼らの方が優勢のようです。そこで、お願いは、貴方とイギリスの人権団体「ライダイハンの正義」とが一緒になって韓国と戦い、韓国の慰安婦像の隣に「ライダイハンの母子像」を設置して、韓国の蛮行を国際社会に知らしめるという共闘です。