ニューヨークタイムズは映画「主戦場」 をどう報じたか

2019年10月9日
なでしこアクション代表 山本優美子

ニューヨークタイムズは映画「主戦場」 をどう報じたか

ニューヨークタイムズに日本支局発の映画「主戦場」の記事が掲載された。インターネット版は2019年9月18日付でタイトル「戦時中の日本による女性の奴隷化を探求した映画監督が提訴されるA Filmmaker Explored Japanʼs Wartime Enslavement of Women. Now Heʼs Being Sued.)」。紙面は9月19日付ニューヨーク版第8面でタイトル「日本による性奴隷化の映画で米国人が提訴される(American Sued Over Film on Sexual Enslavement by Japan)」だ。 ( 記事日本語訳はこちら

この記事が出る前の9月3日、私はニューヨークタイムズ日本支局長リッチ素子記者の取材を受けた。写真撮影も依頼されたが写真はお断りした。結局私の発言は記事の中で使われなかったが、記事を書いたリッチ素子記者と直接話し、日本支局スタッフと接することができたのは、ニューヨークタイムズ関係者の考え方を知る上で良い機会であった。

 

■     「主戦場」全米大学上映ツアー開始と同時の記事

記事がニューヨーク版紙面となった9月19日は「主戦場」の監督ミキ・デザキ(出崎幹根)氏が「米国大学上映ツアー」を開始しした日だ。出崎氏もこの記事をツイッターで「素晴らしい記事(Great NY Times article)」 と喜んでいる。

ツアーは10月11日までのおよそ3週間、米国東海岸の北部バーモント州からジョージア州まで南下し、大陸を横断して西海岸まで、ブラウンやエール、UCLAのような有名大学を15か所回った。出崎氏のツイッターでは各大学での上映会が成功した様子が投稿されている。コネクチカット大学では、反日で有名な歴史学者アレックス・ダデン教授も参加したとのこと。UCLAではグレンデールとサンフランシスコで慰安婦像建立に協力した市民団体関係者も参加すると宣伝されていた。

記事と上映ツアー開始が同日とは、偶然とは思えないタイミングの良さだ。日本支局によると日本発の記事であっても、掲載日は本部が決めるので掲載されて初めて日本支局が知るそうだ。

全米15もの有名大学を3週間で回る手配の良さにも感心する。

出崎氏自身は一年半前に日本で大学院を卒業したばかりの36歳の一日系米国人男性だ。特段影響力のある人物とは思えない。出崎氏と映画を支援する勢力が日本だけでなく米国内にもいるのではないだろうか。

 

■    慰安婦問題  記者が理解できない三点

慰安婦は性奴隷ではないと主張する私は映画「主戦場」でレイシスト(民族差別主義者)扱いされている。これまでも米国訪問の際に「山本優美子レイシスト、ナショナリスト出ていけ」のデモに遭ったり、誹謗中傷のチラシを配布されたりして不愉快な思いを何度もしてきた。

今回取材の際、リッチ記者に「またメディアに酷いことを書かれて嫌な思いをすると思うと今日の取材も躊躇した」旨を伝えると、そんなことはないと驚いた様子だった。リッチ記者も日本支局の女性スタッフも非常に感じの良い方たちで、取材は言葉を一つ一つ確認しながら丁寧に進められた。

そんなリッチ記者と話す中で、慰安婦問題についてどう説明しても理解してもらえない点が改めて分かった。慰安婦制度と河野談話と教科書だ。

リッチ記者は、慰安婦制度について当時と現在の社会や人権状況が違うということは分かっても「軍用に慰安所があること自体があってはならない。女性への人権侵害」というという考え方だ。

記事では1993年の謝罪と表現されている河野談話は、リッチ記者は日本軍の強制性の証拠だという。確かに外務省のホームページの河野談話の英文日本語よりも更に酷い印象を与えるものだ。たとえ談話が韓国との政治的妥協であっても、2014年に日本政府が河野談話を検証しても、2016年に日本政府代表が国連人権委員会で強制連行、20万人、性奴隷を否定する発言をしても、1993年から四半世紀以上にわたって広められた河野談話は今も強制連行の証明として使われる。海外メディアの慰安婦問題記事では必ずと言っていいほど引用されている。

教科書については、リッチ記者は「米国では奴隷制度を教科書に載せている。なぜ日本では慰安婦について教えないのか」という。慰安婦制度と奴隷制度は全く違うものだし、子供たちに教えるべき重要な歴史は他にたくさんある、と説明しても「歴史の悪い面も子供には隠さず教えるべきだ」と納得できない様子だった。

 

■     ニューヨークタイムズらしい 日本は植民地で残虐行為

日本の保守層からは反日的メディアと呼ばれるニューヨークタイムズだが、今回の記事も日本は韓国を植民地にして残虐行為をしたことが前提となっている。

記事には「朝鮮半島を植民地として占領した日本」、「慰安婦の処遇を含めて、そこで行った虐待行為」、「国家の名誉を損なうべきではないとして、これまでドイツがホロコーストへの償いを通して行ったような贖罪を避けてきた」とある。

残念ながらこれらは海外メディアのお決まりの表現でもある。

 

■   影響力のある保守主義者が脅し?

記事では「出崎が映画の中でインタビューしている保守主義者たちは、日本政府の最高位の層に影響力を持つグループに属している」として、「日本の子供たちの教育のあり方や、どのような芸術作品を鑑賞させるかなどの政策の形成に係っているほか、恐らくは日本の外交政策の主なあり方、特に韓国との間の外交政策についても影響力を持っていることが注目される」とする。あまりにも過大評価だ。我々側には著名なジャーナリストや評論家もいるが、残念ながらこれほどの影響力はない。

その「保守主義者たちの感情を逆なでする」ものとして「愛知国際芸術祭は、朝鮮人慰安婦を象徴する像に対するテロの脅しによって中止に追い込まれた」との例を挙げる。その後に出崎氏の言葉「映画に対する提訴は、国家主義者たちが、いかに自らに抵抗する者たちを黙らせようとしているか」、「この映画の最重要テーマは、なぜ彼らが歴史を消したいのか?である」と続く。

慰安婦像展示へのテロの脅しと映画への抗議や提訴が両方とも保守主義者の圧力、という印象を与える書き方だ。日本の保守、国家主義者、は権力を振りかざして暴力的というイメージ。これも海外メディアのお決まりの表現だ。

出崎氏は自分がまるで権力者に圧力を受けた被害者のように語っているが、我々が「歴史を消したい」などとは彼の勝手な思い込みだ。我々が訴えたのは出崎氏の詐欺的行為と人権侵害が理由だ。被害者は我々の方である。

 

■     ニューヨークタイムズも認めた 慰安婦20万人証拠なし

記事は評価できる点もある。取材の時リッチ記者は、映画では結局「慰安婦20万人」は誰も証明できなかった、と話していた。確かにその通りで、映画では慰安婦の「強制連行、性奴隷、20万」の三点について左派の学者はだらだらと話してはいるが、結局は誰も証明出来ていない。

今回の記事ではその点をこのように書いてある。「主流派の専門家たちは、日本軍が力づくで婦女子を誘拐したことを示す直接的証拠がないこと(保守主義者たちは、この点を衝く)についても隠さず打ち明け、慰安婦とされた婦女子の人数の見積りにも大きな開きが存在することについても率直に語った」

 

■  映画は学術研究倫理違反の卒業プロジェクト

この記事をよく読むと大学関係者、研究者であれば気づくことがある。映画はそもそも卒業研究であったこと、その研究対象者が提訴したということ。つまり学術研究倫理に反した行為があった可能性が高いことだ。そして指導教授は教え子の研究協力者に対して配慮している様子が全くないこと、だ。

記事で出崎氏は「卒業テーマの研究のためにドキュメンタリー作品の制作を思い立った」とし、原告側は「映画があくまで出崎の卒業テーマ作品であって商業映画ではないことを前提としてインタビューを受けることに同意した」ことを明らかにしている。

また、「映画にも登場する、出崎の指導教官で東京・上智大学で教鞭を取る比較政治学者・中野晃一」は、「原告らは映画の解釈が自分たちにとって完全に気に入るものではなかったので、提訴をするための理由を捜していると思うと述べている」と書いている。学術研究倫理を守る指導教官であれば、教え子の研究協力者に対して配慮を欠いたこのような発言ができるはずはない。

日本では文科省の指導で多くの大学で学術研究倫理規定が設けられている。もちろん上智大学にも研究対象者・協力者の人権を擁護する学術研究倫理規定がある。研究対象者は自分が納得できなければ研究参加協力を撤回できるし、データの破棄を求めることも出来る。

米国の大学では研究倫理規定が日本よりずっと厳しいと聞く。研究者は大変な苦労をして倫理規定に則って研究に取り組んでいるのだ。研究倫理に問題のある映像が大学で上映されてよいのだろうか。

 

■     「表現の自由、言論の自由への侵害」へのすり替え

出崎氏は、9月23日付ロシア国際テレビネットワークの記事で「日本の戦時女性奴隷化についての映画『主戦場』に対する差し止め訴訟は、言論の自由、表現の自由への攻撃、議論の口封じ」と語っている。彼にとっては自分の権利だけが大切なようである。

我々が止む無く提訴するに至ったのは、彼の卒業研究に協力した我々研究対象者の訴えに出崎氏が聞く耳を持たなかったからだ。

詐欺的手法を用いて、学術研究倫理を守らずに制作し、研究対象者の人権を蔑ろにする映画は「表現の自由」でも「言論の自由」でもない。

以上

 

ニューヨークタイムズ記事 日本語訳「戦時中の日本による女性の奴隷化を探求した映画監督が提訴される」

ニューヨークタイムズが報じた映画「主戦場」の記事の日本語訳をご紹介します。
公式の日本語版がないため、有志の方に翻訳していただいたものです。

【 元の記事 】
New York Times   Sept. 18, 2019
A Filmmaker Explored Japan’s Wartime Enslavement of Women. Now He’s Being Sued.
By Motoko Rich
https://www.nytimes.com/2019/09/18/world/asia/comfort-women-documentary-japan.html

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戦時中の日本による女性の奴隷化を探求した映画監督が提訴される

東京発-出崎幹根(以下、「出崎」という。敬称略)が卒業テーマの研究のためにドキュメンタリー作品の制作を思い立った時、日本の政治に波紋を及ぼしている、ある疑問点について考証を試みた。その問題とは、終戦から75年を経た今、なぜ、政治的な影響力を持つ少数の保守勢力が、既に国際的に認知され受入れられている日本の戦時中の残虐行為について、熱心かつ声高に論争し続けるのか?ということである。

出崎が焦点を当てている問題は、具体的には、歴史研究者が呼ぶところの、第二次大戦中の大日本帝国軍隊による数万人の朝鮮人女性及びその他の婦女子の軍事用売春宿における性奴隷化である。いわゆる慰安婦は、実際には賃金支払いを受ける売春婦であると保守勢力は主張しているが、これについて出崎は詳細に追求してみたのだ。

結局のところ保守勢力は、出崎を納得させられなかった。出崎は保守勢力の主張の性格について「人種差別主義」や「性差別主義」などの言葉を使って表現したうえ、保守主義者らは「歴史修正主義者」であると結論づけた。すると、今度は保守勢力のなかから5人が彼を名誉毀損で裁判に訴えたのである。

出崎が映画の中でインタビューしている保守主義者たちは、日本政府の最高位の層に影響力を持つグループに属している。日本の子供たちの教育のあり方や、どのような芸術作品を鑑賞させるかなどの政策の形成に係っているほか、恐らくは日本の外交政策の主なあり方、特に韓国との間の外交政策についても影響力を持っていることが注目される。

慰安婦について、どのように表現しても、保守主義者たちの感情を逆なでするようだ。先月開催された愛知国際芸術祭は、朝鮮人慰安婦を象徴する像に対するテロの脅しによって中止に追い込まれた。

出崎と彼の支援者・外部の歴史家らは、かかる映画に対する提訴は、国家主義者たちが、いかに自らに抵抗する者たちを黙らせようとしているか、また同時に、1993年に日本政府が正式に行った慰安婦への謝罪に対してさえ、これに異を唱える見解を広めるためなら手段を選ばないことを示している、とする。「この映画の最重要テーマは、なぜ彼らが歴史を消したいのか?である」と36才の出崎は言う。

1993年の謝罪は、安倍晋三首相を含む政治的右派にとって、日々悪化する傷のようなものである。彼らは、朝鮮人慰安婦は、物理的強制力をもって売春宿に押し込められたことを示す証拠はないので、すなわち性奴隷ではないと主張しているのだ。

日韓両国の外交的、経済的または安全保障上の紐帯が、近年、これほどに悪化したことはない。朝鮮半島を植民地として占領した日本が、慰安婦の処遇を含めて、そこで行った虐待行為に対し、今なお負っているものに関する長年の紛争が、ついに決裂の状態に至ったかのようである。

保守主義者らは、日本が大戦中に行った行為は他の国々ほど過酷なものではないから、それをもって国家の名誉を損なうべきではないとして、これまでドイツがホロコーストへの償いを通して行ったような贖罪を避けてきた。

慰安婦に関する主流派の見方に対して声高に批判する日本の右派勢力の多くは高齢者層であるが、それに加えてソーシャル・メディアに精通した若い活動家らも、慰安婦を性奴隷と説明する人々には手厳しく批判するのが常である。

「これは人々の目を怒りで燃え上がらせる問題だ」と、日本の戦争記憶を専門にするニュー・ハンプシャー州ダートマス大学の准教授ジェニファー・リンドは言う。

「熱情の強さでは韓国でも同じであり、韓国の活動家らは、婦女子が暴力的に奴隷化されたという筋書きから一歩でも外れた解釈を許そうとしない」と彼女はいう。 2015年には、ある韓国の学者が「兵隊と慰安婦の関係は、一般に考えられているよりも複雑である」とする本を書いたところ、多くの箇所について見直すよう裁判所命令が下った。

出崎の2時間ドキュメンタリーである「主戦場」とは「慰安婦問題の主戦場」という意味である。この映画は既に日本と韓国では商業放映され、今秋にはアメリカ各地の大学キャンパスで上映される予定になっている。

フロリダ育ちの日系2世である出崎は、日系移民である両親から慰安婦について、ほとんど何も聞かされたことがない。出崎がこの問題について研究を始めた頃、彼は西側の報道メディアは史実について「何か思い違いをしているのではないか」と思ったという。

主流派の見方を理解するため、彼は、種々の証拠を示して説明をする歴史家、支持者、弁護士たちにインタビューを試みた。文書資料は、日本軍が売春宿の運営に直接的な役割を持っていたことを証明し、何百人という女性が、いわゆる慰安所に於いて悲惨な状況下で働かされたと証言していた。

しかし、主流派の専門家たちは、日本軍が力づくで婦女子を誘拐したことを示す直接的証拠がないこと(保守主義者たちは、この点を衝く)についても隠さず打ち明け、慰安婦とされた婦女子の人数の見積りにも大きな開きが存在することについても率直に語った。

映画の中で出崎は、保守派が指し示す1944年の米陸軍報告書に焦点を当てる。この報告書はビルマでインタビューした20人の朝鮮人慰安婦についてまとめたものであり、報告書は彼女らを「日本兵のために日本軍に付属せられた売春婦にすぎない」としたうえ、「騙されて」連れてこられたと説明する。

売春宿の運営に軍が直接係っていたことを示す重要文書を世に明らかにした歴史学の退職教授である吉見義明は、「保守派は、ある部分を否定することで、全部の状況を否定しようとする」と話す。

強制性の扱いが映画の主要な部分を占める。最終的に出崎は、女性たちは強制され又は騙されて、本人の意思に反して兵隊らに性サービスを提供させられたと話す研究者の説明に納得する。映画の中で彼は、慰安婦の存在を忘れないことは「人種差別、性差別、ファシズム」と戦うことだ、と結論づける。

保守派について出崎は、「自分は彼らを名誉毀損していない」という。「自分は、慰安婦問題とそれに係っている人たちについてドキュメンタリーを創っただけだ」と。「映画は情報を明らかにする。その情報をどう解釈するかは観客次第である」と付け加えた。

しかし、出崎を提訴した側に言わせると、彼にはバイアスが掛かっているという。「新しい歴史教科書をつくる会」の副理事長で、その名刺に「誇りある日本人をつくる!」の文字を刷り込んでいる藤岡信勝は、「“歴史修正主義者” というのは、最大の悪意がこもった単語ですよ」と話す。

別の原告の一人である藤木俊一は、当方宛てのメールの中で「これは、歴史を捏造しているのは誰かを明らかにする戦いであると私は確信する」と述べている。また、「アメリカでは、リベラル派は保守派の人間に向かって“人種隔離主義者”“KKK”“ナチス”“ヒトラー”などのレッテル貼りを好んでするけれども、彼らのいう“人種隔離主義者”とは、自分たち自身のことだ」と付け加えている。

日本に30年以上在住する米人弁護士で、TVコメンテーターとしても人気を博しているケント・ギルバートは、「映画は私の見解を誤って伝えてはいない」が、「大衆ウケを狙ったプロパガンダ映画」であるという。彼によれば「慰安婦とは売春婦にすぎない」という。「皆誰でもが知っていることだ。売春婦に会いたかったら朝鮮人を捜せ、と。朝鮮人は世界中に売春婦をばら撒いているよ」とも。

彼らは出崎と配給会社の東風映画を名誉毀損のほかに契約違反でも訴えている。原告側は、映画があくまで出崎の卒業テーマ作品であって商業映画ではないことを前提としてインタビューを受けることに同意した、としている。原告側は損害賠償の支払いと放映差し止めを求めている。

出崎と配給元の代理人弁護士の岩井信(いわい・まこと)によれば、出演者全員が署名した合意書(release form)において、出崎に全面的な編集権と著作権を委ねている旨を規定しているという。NYTでは発表された2つのバージョン合意書について精査をした。

映画にも登場する、出崎の指導教官で東京・上智大学で教鞭を取る比較政治学者・中野晃一は、原告らは「映画の解釈が自分たちにとって完全に気に入るものではなかった」ので、提訴をするための理由を捜していると思う、と述べている。

映画を観た日韓両国の観衆は、映画は慰安婦論争を理解するための新しい手法を提供するものと述べている。先月末、西江大学校 (Sogang University)で上映した際には、Chae Min-jin (26才)は「日本の右派が主張する内容とロジックを韓国人が理解することは結局のところ無理」だという。

日本の観客のうち、ある者は 自分たちの歴史教科書では得られない情報を映画は提供している、としている。フリーランスのコピーライター・広瀬つばさは、自身の映画批評ブログに、慰安婦とは「看護婦のように病院で働いて人に接するもの」とずっと思っていたと書いた。彼女は、自分が慰安婦のことを「何も知らなかったし、知る機会さえなかった」とも述べた。

出崎は、慰安婦を巡る論争に終止符が打たれるとは思わない、という。「私の結論は、これで終わりというわけではない。私は全てを知っているわけではない。自分が知っている事を基にして自分の結論を擁護できるとは思う。しかし、自分の論点のうち、あるファクターについては維持できない可能性があると考えている」としている。

 

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東京支局長 リッチ素子
井上真己子、山光瑛美は東京から、Su-hyun Lee は韓国ソウルから、報告のため情報提供に寄与した。

この記事は2019年9月19日付ニューヨーク版紙面8ページAセクションにてタイトル「日本による性奴隷化の映画で米国人が提訴される(American Sued Over Film on Sexual Enslavement by Japan)」で掲載される

映画「主戦場」 上智大研究不正調査委員会の主題と人選に関する異議申立書

映画「主戦場」被害者を支える会から「上智大研究不正調査委員会の主題と人選に関する異議申立書」の記事を転載いたします。

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【 PDF版はこちらをクリック 】

*9月4日付け学長名による通知の求めに応じて9月11日に学術情報局研究推進
センターに提出した異議申立書。ただし、委員名は、A,B、Cなどと匿名化した。
3回に分けて連載する。(藤岡信勝記)

 

2019年(令和元年)9月11日
上智大学 学長 嘩道 佳明 殿

藤岡 信勝
〒112-0005東京都文京区水道2丁目6-3
新しい歴史教科書をつくる会気付け

異 議 申 立 書

 (1)9月4日午前、貴職から「研究活動上の不正行為に係る調査について(調査の実施及び調査委員会委員の通知)」と題する文書を落手いたしました。私は、「上智大学における研究活動上の不正行為に係る調査の手続きに関する内規」(以下、「内規」と言う)第15条第2項に基づき、「調査委員会委員に関する異議」を申し立てます。

しかし、調査の内容(主題)に関しても重大な異議がありますので、併せて申し述べます。その理由は、調査の内容(主題)と調査委員会の委員に対する疑義が密接・不可分に関係しているからです。そこで、話の順序として、調査の内容(主題)に関する問題から先に述べることといたします。

(2)私は、上智大学を舞台にして、学術研究の名を騙って行われた一連の不正行為によって、自身の社会的名誉と信用を毀損される被害を受け、その被害は今現在も継続・拡大しております。事件の概要は、上智大学の大学院生の学術研究に私たちが研究対象者として協力したところ、その研究資料(インタビュー映像)を、私を一方的に攻撃し侮辱する内容の商業映画の作成に無断で利用され、全国で一般公開されているというものです。
その研究手続きは、研究協力者への権利侵害を未然に防ぐために大学が定めている研究着手条件に一切従わず、また、実際にも、必要な措置を全く履行しない形で実施されました。この研究上の不正行為によって、私は被害を未然に防ぐ機会を奪われました。
しかし、この不正行為は、単に貴学の元大学院生の暴走によって起こったというものではありません。その不正行為において、主たる実行犯である大学院生を指導する立場にあった指導教授自らが、着手段階から一貫してこの計画を企画・推進していた、いわば「共同正犯」であることが明らかになっているのです。
ですから、私たちの告発は、当然ながら元大学院生・出崎幹根のみならず、担当指導教授であった中野晃一氏をも対象としているのです。このことは、私が執筆し、市販雑誌に掲載された二つの文章のタイトル、すなわち、「慰安婦ドキュメント『主戦場』 デザキ監督の詐欺的手口」(『月刊Hanada』2019年8月号)と「『主戦場』指導教官中野晃一上智大学教授の責任」(『同誌』2019年9月号)からも明らかです。これらの文章は、貴学の側でも十分に承知されているはずです。

(3)私は、このように、この問題を社会一般に向けて発言しているだけでなく、貴学に対しても直接告発し、問題を提起して参りました。まず、4月27日、私は同じ被害者の藤木俊一、山本優美子とともに3名の連名で、不正行為が行われた上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科の委員長あてに、問題の発生した経緯を説明するとともに、インタビューに訪れた3名の元大学院生と指導教授に関する質問状を送りました。ところが、委員長からはこれに対し、本人の文書による許可がなければ答えられないとの返信が送られてきました。これは、被害者が、加害者の所属機関に被害を訴えているのに、加害者の同意がなければ、機関として対応しないということです。あまりに不可解ゆえに、私たちは再度、念を押して質問しましたが、同じ返答が返ってきました。以上が第一段階です。
そこで、6月21日、私は上智大学の卒業生である山本優美子の協力のもとに、研究倫理上問題のある事案の告発窓口として「研究倫理に関するガイドライン」で定めている監査室に電話をし、窓口担当者に30分ほど説明をしました。そして、貴学の責任者の立場にある学長または研究倫理担当の副学長に説明するためのアポを求めました。その趣旨は、事態が悪化する前にこの件について、学問の府である大学にふさわしい主体的な判断によるけじめをつけてもらうことを期待したからです。
ところが、これに対する当方への返事は、学長・副学長との連絡がつかない、連絡はついたが検討中である、面会するかどうかも検討中だ、いつまでに結論を出すかは答えられないなどの全く誠意を疑われる対応に終始するものでした。なお、この時点までには、4月19日の参議院議員会館における中野晃一教授の講演で、同教授が出崎の担当教授であることを自ら名乗り出ていました。以上が第二段階です。

(4)上智大学当局において、事態の深刻さを理解する様子が全く見られないために、私たちは、やむなく、8月29日、内容証明郵便にて「通告書」を上智学院理事長並びに上智大学学長宛てに代理人経由で送付しました。これが第三段階で、この内容証明郵便による「通告書」の送付は、上記の第一段階と、第二段階の貴学の対応の結果として生じたもので、事態は一貫した一連の流れの中にあるものです。
従って、調査委員会は、その検討課題として、「通告書」の中で触れている研究不正について遺漏なく検証することが義務づけられています。また、調査委員会の人的構成も、「通告書」において告発している内容を踏まえて構成されなければなりません。
もしも、本調査委員会と「通告書」に直接の因果関係がないと主張されるのであれば、貴学は6月21日の告発電話の続きとして当方の事情聴取から始めなければならないはずです。私たちに告発の趣旨を説明させ、文書その他の証拠を受領する必要があります。「通告書」を調査委員会でとりあげないのであれば、私たちの告発のステートメントは完結しておらず、何を検討課題としてどのような人選をすべきなのかの起点が存在しなくなるからです。

(5)次に、以上を踏まえた上で、9月4日に送られてきた文書が求める、委員の人選に関する異議申立を行います。しかし、具体的な内容に入る前に、まず一般的に、この種の調査委員会の人選に関する原則を検討しておきます。
 今回のようなケースの場合、調査委員となるべき人物は、次の条件を満たすべきです。
 (a)本件卒業制作に主題として扱われているテーマに関連する言論や運動に関わっていない者でなければなりません。それは、判断の中立性を確保し人脈的繋がりを避けるためです。
 (b)外部有識者については、上智大学に在籍していた経歴のない人物であるべきです。
 (c)研究者については、現役の研究者であることが必要です。本委員会の中立性は、委員が自身の職業的信用を賭けて判断を下す点によってのみ担保されうるものといえます。証拠を無視したり、必要な検討を懈怠して判断を導いた場合、本人の学術的信用が打撃を受けるという重みがなければ、どのような恣意的な結論も導いてしまうことが可能です。従って、研究者として現役を退いた者は不適格である、ということになります。

(6)9月4日に着信した文書によれば、今回の調査委員会委員(候補)の名簿は次の通りです。

 ① A(本学教員 外国語学部ドイツ語学科)
 ② B(本学職員 学長付)
 ③ C(外部有識者)
 ④ D(外部有識者(弁護士 卓照綜合法律事務所))
 ⑤ E(外部有識者(弁護士 卓照綜合法律事務所))

(7)まず、①のA氏は、外国語学部ドイツ語学科の教授で、選出根拠は、内規第11条第4項の(1)に、「研究活動上の不正行為が疑われる被告発者の所属組織(学部又は研究科等)以外の教員1名」とあることによるもので、被告発者の所属組織(大学院グローバル・スタディーズ研究科)とは異なる、外国語学部ドイツ語学科に所属していますから、形式的にはこの内規の規定に合致しているように見えます。
 しかし、そもそも、内規第11条第4項には、「調査委員会の委員は、告発者及び被告発者と直接の利害関係を有しない者で、学長が指名する次の各号に掲げる者とする」という規定があって、その原則の一つの適用例として、(1)の同一の研究組織からの選出を避けるという規定があるものと解されます。
 そこで、この原則に基づいて検討してみると、A教授は中野晃一教授とは所属こそ異なるものの、両者は研究上密接な間柄にあることがわかります。例えば、A教授は、「ソフィア・コミュニティ・カレッジ」の2016年度秋期教養・実務講座「18歳からのメディア・リテラシー」のコーディネーターを務めていますが、10回の講座の中で基調講演の位置を占めると考えられる第1回の講師として中野晃一教授を据えています。
 しかも、10人の中には、荻上チキ(評論家)と堀潤(ジャーナリスト・元NHKアナウンサー)の両氏が含まれています。両氏は、4月20日に「主戦場」の一般映画館での上映が始まった直後の4月24日と25日に、それぞれ、TBSラジオとJ-WAVEの番組に出演し、出崎を招いて彼の商業映画のプロモーション番組の司会役を務めていた人たちです。すなわち、学術研究ではなく同一の方向性の運動に熱心に取り組んでいる、いわば運動上の仲間であり、中野教授につらなる運動上の人脈の中にいる人です。
 従って、A教授は決して中立的な第三者ではなく、中野教授と共通の利害関係をもつ、深いつながりのある人物であり、今回の件について公平な判断を期待することはできないと言わざるを得ません。すなわち、上記(a)の原則に反します。しかも、同教授は学内から選ばれた唯一の教授職の方であるため、内規の規定によって自動的に調査委員会の委員長に就任することになります。
 従って、私はA教授について委員として忌避いたします。800人もいる上智大学の教授の中から、形式的にも実質的にも中野教授の人脈に属さない人を選ぶのは容易なことと想定されます。よりによって、中野教授と人脈的につながる人物は避けるのが常識ではないでしょうか。

(8)次に、②のB氏は、学長付の職員ということで、特に異議をはさむ理由はありません。

(9)③④⑤は、「外部有識者」となっていて、委員5名中3名を占めていますが、これは内規第11条第3項で「調査委員会の委員の過半数は、上智学院に属さない外部有識者でなければならない」という規定によるものと理解できます。しかしながら、③のC氏は、肩書きは単に「外部有識者」とのみ表記されていますが、上記の(a)(b)(c)いずれの原則からも、調査委員会の委員としては不適格と言わざるを得ません。
 第一に、C氏は、上智大学に在籍(1992~2009)していた現上智大学名誉教授です。そのうえ、本件被告発者である中野晃一氏(上智大学比較文化学部講師としての着任が2002年)と在任期間も重なります。上記(b)の原則に明確に違反し、「外部」有識者としての客観性を全く欠いております。
 第二に、C氏は、既に現役を退いた名誉教授であり、調査報告でどのような結論を導こうと自身の学術的信用が今後のキャリアに影響するリスクがないため、中立性を担保する資格に欠けると言わざるを得ません。すなわち、上記(c)の原則に反します。
 第三に、すでにA教授について述べたのと同じ理由で、中野教授と同質の方向性を共有している方であり、本件研究において扱われたテーマに関連して、私たちを敵対視するような政治的立場から活発に発言・活動する人物です。
 例えば、C氏は「憲法9条にノーベル賞を」という運動団体の支援者であり、中野、C両氏がこの団体の呼びかけ人になっています。また、「表現の自由を考えよう 市民らが25日、茅ヶ崎で学習会」(2019年1月22日付け神奈川新聞ネット記事)のように、活発な活動を地元でも行っています。このような人選は、上記(a)の原則に反することは明瞭で、この段階に至ってさえもなお、厳正中立な観点から事件を解明するのではなく、研究上の不正行為の実行者らと通謀し事件を有耶無耶にしようとする意図があるのではないかと、疑わざるを得ないものです。
 以上の理由から、C氏についても、忌避させていただきます。

(10)外部有識者のうち、残りの2名は、いずれも弁護士となっております。しかも、二人の弁護士は、同一の法律事務所に所属しています。お二人は上智大学の顧問弁護士なのかもしれません。こういう状況のもとで、公正な調査と審議が期待出来るのか、はなはだ疑問です。かりに貴学の顧問弁護士でなくても、なぜ同一の弁護士事務所から外部有識者を任命しなければならないのか、疑念を禁じ得ません。外部有識者には公平な判断をできることが外見上も明らかな人物を選ぶべきです。この点、人選枠組みの再考を求めます。

(11)先に述べたとおり、私たちは三つの段階を経て貴学に研究倫理に反する不正行為を訴え続けてきました。この告発は完全に貴学の研究倫理規定に則したものであるにもかかわらず、貴学は門前払いをするか、無視するという態度に出ました。最後の段階では、内容証明郵便にて「通告書」を直接、学長・理事長宛にお送りしたわけです。
 すると、そのとたんに調査委委員会の発足が告げられ、人選の原案が届けられる展開となりました。4月27日から数えてまる4か月、6月の監査室への通報から数えても2か月半という長期間にわたって、全く私たちの告発を取り上げようとせず、内容証明郵便を受け取って初めて当方ににわかに連絡をするとは、問題の認識の欠如と誠意の欠落を疑います。

 (12)貴学がそのような行動をとった理由は、いただいた文書の中から垣間見えるものです。私あての文書の冒頭には、次のように書かれています。
 「標記の件について、2019年6月21日及び同月24日に貴殿から本学修了生が在学中の2017年度に制作したGraduation Project について『上智大学人を対象とする研究に関するガイドライン』に基づく審査や手続きを経ておらず、研究活動上の不正行為の疑いがある旨の通報がありました。」
 ご覧のとおり、ここには大学院生の指導教授である中野晃一教授の責任が、調査の主題として全く書かれていません。先に言及したとおり、中野教授は単に出崎の形式上の指導教授であったのではなく、学術研究の名を騙って承諾書を詐取しようとした行為の共同正犯であり、しかも私から承諾書のサインを取らなければ研究に着手してはならない、とまで課して、この詐欺行為を先頭に立って推進していたのです。
 貴学学長におかれては、通知を私あてに発信する時点ではすでに内容証明郵便による「通告書」が手もとには届いていたわけですが、それを無視するかのような対応をしています。そのことは、この問題を、卒業した大学院生のみの問題として矮小化し、中野教授の責任を全く不問に付すという態度の表れと断じざるを得ません。だからこそ、よりによって、中野教授の人脈にあることが明白な人物を委員や委員長に選んで、調査委員会を組織したという形だけを作って見せた上で、問題なしという結論を出して終わりにする、という狙いであることは見やすいことです。遺憾なことに、こういうやり方にはそのどこにも、公正性・中立性・客観性を求める学問共同体のリーダーとしての真摯な態度が感じられません。

 (13)私たちは二つの異なる告発をしているわけではありません。事件は一つで、不正行為が疑われる対象者は二人です。6月時点の告発が主に元大学院生を対象としていたという屁理屈をつけるのであれば、直ちに中野教授に関する告発を監査室に対して行います。しかし、それは時間とエネルギーのロス以外の何ものでもありません。「通告書」を正面から検討するのか、あくまで無視するのか、この点に関して明確なご返答をいただきたいと存じます。
 予備知識のない当方には、僅か7日間で異議申立の判断を迫ったのですから、この異議申立への返答はそれと同等ないしそれよりも短い期間で回答するように要求します。私たちは調査に協力することはやぶさかではありませんが、もし明確に忌避した当方の人選に関する異議が無視されるなら、可能なあらゆる手段をもってことの真相を明らかにし、上智大学の責任を追及することになると申し上げておきます。
学長におかれましては、貴学の信用と名誉がかかっていることを十分ご認識いただき、研究者としての真摯で適切な対応をされるよう強く要請いたします。なお、この文書の写しを、上智学院理事長にもお届け下さいますようお願いいたします。

(以上)

映画「主戦場」への抗議 上智学院理事長・上智大学学長あて通告書(8月28日付)

映画「主戦場」に抗議します!から「上智学院理事長・上智大学学長あて通告書(8月28日付け)」の記事を転載いたします。 ****************************************************************

【 PDF版はこちらをクリック 】

★映画「主戦場」で侮辱され、人権を侵害された被害者のうち、ケント・ギルバートら5名は、代理人弁護士を通して、8月28日付けの「通告書」を上智学院理事長・上智大学学長に内容証明郵便として送った。発送は29日、配達証明書の日付けは30日であった。

内容証明郵便は1ページ20字×26行の制約があり、全ページに印鑑が押されている。分量は全体で30ページにもなっているが、これはそのテキスト版である。読みやすくするために、段落の区切りを「一行アキ」とした。なお、本筋に関係のない住所・電話番号等の情報は省略し、あまりに煩雑な詳細はカットした。誤字・誤植の類は修正ズミである。適宜必要に応じて[ ]で括って注記を入れる。

(9.24藤岡信勝記)

 

通告書(内容証明郵便)

令和元年8月28日

東京都千代田区紀尾井町7-1

学校法人上智学院

理事長 佐久間勤 殿 上智大学

学長  曄道佳明 殿

弁護士 髙池 勝彦

 前略 小職は、別紙代理人目録記載の弁護士25名を代表して
ケント・エス・ギルバート(タレント、アメリカ合衆国カリフォルニア州弁護士)
トニー・マラーノ(国際ジャーナリスト)
藤岡信勝(元東京大学教授、新しい歴史教科書をつくる会副会長)
藤木俊一(会社社長、「テキサス親父」日本事務局長)
山本優美子(「なでしこアクション」代表)
5名の委任を受け、貴学院及び貴職らに対し、下記のとおり質問・通告します。

 

1 経緯

小職らが貴大学との関連で問題にする事案の従前の経緯は次のとおりです。すなわち、

(1)かつて貴大学大学院グローバル・スタディーズ研究科修士課程(前期博士課程)に在学した大学院生で平成30年に同課程を修了した日系二世のアメリカ人ミキ・デザキ(日本名・出崎幹根。以下「出崎」という)が「監督」した映像作品「主戦場」(以下「本件映画」という)は、いわゆる慰安婦問題を中心テーマとしたドキュメンタリー映画という触れ込みで、本年4月20日から東京を初め全国の映画館で上映され、すでに数万人に及ぶ多数の観客を動員しているとのことです。
本件映画には、日本語・英語・韓国語の三つのバージョンが存在するとされ、7月25日からは韓国での上映が始まり、アメリカでも今後上映される可能性があると見られています。

(2)ところで、上記5名(以下、単に「5名」という)は、その意に反して、この映画に「出演」させられている者たちです。

5名は、確かに出崎の求めに応じインタビューを受けましたが、それは出崎が大学院の修士課程を修了するために修士論文に代替する研究として大学に提出する「卒業制作」「卒業プロジェクト」(以下「修了研究」という)に協力を求められたからであり商業映画への「出演」は承諾していません。
例えば5名のうち、出崎が最初にアプローチした山本優美子の場合、出崎は同人に対するメールの依頼文の中で、インタビューの目的を次のように説明していました。
「これは学術研究でもあるため、一定の学術的基準と許容点を満たさなければならず、偏ったジャーナリズム的なものになることはありません」「私が現在手がけているドキュメンタリーは学術研究であり、学術的基準に適さなければなりません。よって、公正性かつ中立性を守りながら、今回ドキュメンタリーを作成し、卒業プロジェクトとして大学に提出する予定です」と。
また、同じく出崎のインタビューを受けたジャーナリスト櫻井よしこの場合、同人に対するインタビューの趣旨を説明した出崎の依頼状には、ことさら、上智大学の校章の入った便箋を用い、白々しくも、次のように書かれていました。
「我々が慰安婦問題について研究を進める過程で、日本の保守派がこの問題に関して説得力のある議論を展開していることが明らかになった。慰安婦問題に関わる右派・左派両方当事者へのインタビューをもとに、両者の議論の対立点を鮮明化することを目的としたインタビュー」であると。

(3)このように表現は様々ですが、出崎は、
①修士課程の修了要件である修士論文に代替する研究としてのビデオ製作であること
②製作して大学に提出するためのものであること
の2点を全員に共通するインタビューの目的として述べていました。5名は、すべて、この出崎の発言を信じて、善意から貴重な時間を割き、無償で出崎のインタビューに応じたのです。

(4)出崎は修了研究のために他の二人の大学院生、岡本明子、オブリー・シリヴィとともに修了研究制作チームをつくり、5名に対するインタビューを実施しました。その各インタビューの申込日・撮影日・撮影場所は次のとおりです。[省略]

(5)ところで、出崎の修了研究として大学院に提出したはずのドキュメンタリー・ビデオはどのようなものになったのか、5名のうちの誰一人として知らされた者はおりません。そうするうちに、出崎は、藤岡を除く4名に対し、ドキュメンタリー映画が完成し平成30年10月に釜山の国際映画祭にて上映されることになったと通知してきました。映画のタイトルは「主戦場」とのことで、卒業制作のテーマとして5名に告げていた「歴史議論の国際化」とは全く異なるものでした。そして、その後平成31年3月と4月に開催された本件映画の試写会で明らかになったことは、この映画の実態が学術研究とはおよそかけ離れた韓国の元慰安婦の確証のない「証言」なるものを真実と前提して、日本政府及び日本人を糾弾する運動のための一方的でグロテスクなプロパガンダ映画となっていることでした。

本件映画は、慰安婦問題を取り扱っているのですが、終幕に至るや、やおら、安倍政権の政策全般の批判に転ずるのです。時の政権を批判することは、もとより、国民の表現の自由に属するでしょう。しかし、問題は、そういうことではなく、本件映画の製作が学術研究目的にあるのではなく、専ら自らの政治的メッセージを観客に伝えることを目的としていることを端的に示していることです。

それだけではありません。本件映画は、始まるや否や、藤岡、衆議院議員杉田水脈、ケント・ギルバート、藤木俊一、トニー・マラーノの5名の顔写真を並べたうえ同人らを「歴史修正主義者」として紹介しているのです。 いうまでもなく「歴史修正主義者」(Revisionist)とは、ナチスのホロコーストを否定する道徳心の欠けた人間として社会的に抹殺されて当然と見なされているような存在です。しかも、本件映画は、REVISIONISTというレッテル貼りのための文字を画面いっぱいに大映しして、上記5名を断罪し、先ずこれを観客の脳裏に刷り込むことを意図してつくられています。

本件映画の「公式プログラム」には、もっともらしく、「対立する主張の数々を小気味よく反証させ合いながら、精緻かつスタイリッシュに一本のドキュメンタリーに凝縮していく」などと書かれていますが、その実態は5名が何かを話すや、これに反対する論者らが寄ってたかって5名の話を叩くという構成になっています。しかし、5名の側にはこれに対する反論・「反証」の機会が与えられていないのです。

「反証させ合い」など全くしておりません。出崎は撮影時の「公正性かつ中立性を守りながら、今回ドキュメンタリーを作成」するとの約定を完全に裏切っています。かくして、本件映画は、一方的なプロパガンダ映画になっているのです。

取材対象者の5名は、それぞれ根拠をもって体系的に話しているにもかかわらず、前後の脈絡を無視し、発言者の一部の言葉尻を恣意的にとらえ、したがって、結果的に発言者の真意を歪めてインタビュー対象者を人格的に貶める巧妙な手口が駆使されています。先のレッテル貼りと併せて、本件映画の真の狙いは、「慰安婦=性奴隷」否定派の論者の人格を攻撃し侮辱することにあったと断定できます。ちなみに、慰安婦性奴隷否定論は日本政府の見解でもあります。

出崎は、山本優美子宛に「大学院生として、私には、インタビューさせて頂く方々を、尊敬と公平さをもって紹介する倫理的義務があります」などと書いていましたが、実際に行ったことはそれとは正反対のことでした。

5名のインタビュー映像がこういうかたちで用いられることを少しでも予想していたなら、この5名は絶対に出崎のインタビューの申し入れに応じることはありませんでした。したがって、出崎の5名に対するインタビューの趣旨説明は、必然的に欺罔的にならざるを得ず、上記のような多くの詐言を弄することになったのです。このようなやり方が学術研究の名でなされることが許されるはずがありません。このことは政治思想の左右の対立・論争の問題などではなく、したがって、貴学が局外中立に立てる問題でもありません。

(6)かくして、5名は共同声明にサインした上で、5月30日、日本記者クラブにおいて開かれた記者会見の場でこれを発表し、本件映画の上映中止を求めました。すると、出崎と本件映画の配給会社東風は、これに対抗して、6月3日、記者会見を開き、映画の差し止め要求を拒否しました。そこで、ケントら5名は、やむなく、6月19日、出崎と東風を被告として、本件映画の上映中止と損害賠償を求めて東京地方裁判所に提訴するに至りました(令和元年(ワ)第16040号映画上映禁止及び損害賠償請求事件)。

 

2 上智大学の責任

(1)5名が出崎のインタビューに応じた根本理由は、本件映画が上智大学という日本を代表する私学における学術研究であることを信用した点にあります。

出崎が、山本優美子へのメールにおいて「これは学術研究でもあるため、一定の学術的基準と許容点を満たさなければならず、偏ったジャーナリズム的なものになることはありません」(下線は引用者による)として示したように、「偏ったジャーナリズム的なもの」になるのではないかという研究対象者の懸念を「学術的基準と許容点を満たした」「学術研究」を偽装することで払拭しているのです。

つまり、上智大学への社会的・学術的信用を利用して、プロパガンダ映画が作成されたのです。もし、出崎が正面から一人のジャーナリストとして取材を申し込んだのであれば、当然ながら5名は「偏ったジャーナリズム的なもの」に利用されることを警戒して、当然、インタビューを断ったであろうことは明らかです。

(2)学術研究が政治的・商業的・宗教的プロパガンダに利用されるような事態を防ぐため、各大学は、研究倫理規定を設け、学術機関の信用毀損を未然に防ぐ手立てを講じております。

貴学においても、研究倫理規定を定め、特に、今回の件のような聞き取り調査に基づく研究については、研究対象者の権利を守るために「人を対象とする研究」についての事前審査規定を定めておられます。

ところが、出崎は、当該研究において、この審査を受けておりません。どのように優れた倫理規定を定めても、それを端から回避することが容認されてしまっては、何の実効性もありません。

出崎および出崎の指導教官である中野晃一教授は、学術上の重大な倫理義務違反を犯しているといえます。

(3)中野教授は単にその指導学生が研究倫理上の問題行動を起こしたことについて管理責任を問われているというだけではありません。

中野教授は出崎の修了研究の単なる指導教官だったのではなく、

①みずから映画「主戦場」に登場し、しかも、一方に偏した重要なコメントを最も長くほしいままに述べていること

②製作過程でも、藤岡信勝が承諾書のサインを拒否したことへの対応として、サインをとれなければ製作を続けることはできないと指示していたこと

③取材対象者を欺罔し誹謗する映画の問題点が指摘された後でも、なんらその問題性を認識することなく「今になって騙されたなんだって言ってるけど、全部自分がしゃべっている話なんですね」などとの言辞を弄し、研究倫理上の問題性を省みなかったこと

④さらに、みずから商業映画の宣伝役まで買って出ていること

⑤被害に遭った5名を「顔も見たくない人たち」などと公の場で露骨に嫌悪の情を示してののしっていること

⑥指導教官なら院生のインタビューへの協力にまずは謝意を表するのが礼儀であるにもかかわらず、全くそのような姿勢を示さず、逆に、してやったりの態度をとったことなどを指摘できます。

上記各事実を総合すると、上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科中野晃一教授は、単なる指導教官の域を超えて、当初から研究対象者・協力者をペテンにかける不正な企みに積極的に加担し、出崎の詐欺的行為を出崎と一体となって企画・推進したことが明らかです。ここに事態の深刻さがあります。

(4)かかる事情を鑑みれば、貴学には以下の責任があることが明らかです。すなわち、

①出崎が貴学の「人を対象とする研究」の審査を受けずに作成した卒業研究を修士課程修了の要件として認定したこと

②「人を対象とする研究」の事前審査を受審する義務について、貴学の指導教官が意図的に懈怠したこと

③出崎の修了研究についてその共同制作者とも言える中野教授に、学術の名を騙った詐欺行為を許した貴学の人事管理上の責任です。
かかる詐欺的行為が、上智大学の研究手法として何ら問題のないものとみなされるのであれば、過去に築きあげられてきた学術研究機関としての貴学の名声と信用は、根底から破壊されます。

それは同時に、貴学に籍を置き、真面目に研究活動に勤しむ他の同僚研究者(院生・学部生を含む)の今後の学究活動に重大な障害をもたらすものと危惧されます。

(5)被害者の藤岡信勝・藤木俊一・山本優美子の3名は、4月27日、貴学大学院グローバル・スタディーズ研究科の委員長あてに問題の発生した経緯を説明するとともに、インタビューに訪れた3名の元大学院生に関する質問状を送りました。

ところが、委員長からはこれに対し、本人の文書による許可がなければ答えられないとの返信が来ました。

そこで、藤岡信勝は貴学の卒業生である山本優美子の協力のもとに、研究倫理上問題のある事案の告発窓口である監査室に電話をし、窓口担当者に30分ほど説明をしました。

そして、貴学の責任者の立場にある学長または研究倫理担当の副学長に説明するためのアポを求めました。

その趣旨は、事態が悪化する前にこの件について、学問の府である大学にふさわしい主体的な判断によるけじめをつけていただくことを期待したからです。ことは上智大学の名誉にも深く関わることです。

ところが、当方への返事は、学長・副学長との連絡がつかない、連絡はついたが検討中である、面会するかどうかも検討中だ、いつまでに結論を出すかは答えられないなどの全く誠意を疑われるような対応に終始しました。

かくして、小職は、貴学に対し、直接、本書によって問題の所在を知っていただくべく、本書の送達に到った次第です。

 

3 質問・要請事項

従前の経緯の概略は、前項記載のとおりでありますが、小職らは、貴職らに対し、以下のとおり質問・要請いたします。

すなわち、
(1)本件映画の製作に携わった出崎幹根、大学院生岡本明子、同オブリー・シリブィの3名の在学期間と修士課程卒業年次並びに修了研究(「卒業制作」)のテーマ、概要、課程修了の可否、評点をご教示ください。

(2)修了研究の聞き取り調査として作成されたインタビュー素材を、研究協力者に事前に知らせることなく商業映画に転用した出崎の行為について、貴学・貴職らは何ら問題ないとお考えですか。見解をお聞かせください。また問題ないとされる場合には、今後も同様の事態が貴学の学術研究の下で生じても、問題はないと認識されますか。

(3)出崎の修了研究は、研究対象者への聞き取り調査を中心に構成されており「人を対象とする研究」に該当します。

貴学が定める「人を対象とする研究」に関するチェックシートでは、24の項目について、<yes‐no>で答えるようになっていますが、そのうち一つでもyesがあれば、委員会による審査の対象となり得るとされています。今回のケースでは、以下の各項目につき、Yesとなり、明らかに審査を受ける研究に該当すると考えられます(番号はチェックシートの番号)。[*従って、番号はとぶことがある]

<1>試料・情報・データ等の収集
(1)侵襲・危険性
①研究対象者が何らかの身体的または精神的な負担、不快、苦痛あるいは危険性を伴う可能性がある。yes
②研究対象者となることで、研究対象者個人や集団が差別を受けたり、経済状況や雇用・職業上の関係、私的な関係や財産等に損害を与える危険性がある等、研究対象者に不利益が生じる可能性がある。yes
(3)情報・データ等収集の手法
① 実験、調査の正確性を期すなど、研究遂行上の止むを得ない理由により、研究対象者に真の研究目的を知らせることができない。yes
(4)研究対象者・研究対象者との関係
③ 研究対象者や、研究対象者の関係者との間に、利益相反関係がある。(例えば教師、同僚、雇用主、親族等、当該研究の実施、協力以外に何らかの力関係や血縁関係等がある。)  yes
<2>情報・データ等の分析
(1)プライバシー
① 個人が特定される情報・データ等に基づき、分析活動を行う。 yes
<3>試料・情報・データ等の管理(保管・廃棄)
(2)試料・情報・データ等の廃棄時期・方法
② 収集した試料・情報・データ等の全部または一部につき、検証や将来の研究利用または他機関への提供等研究遂行上の理由により、当該研究終了後も廃棄しない予定である。yes
<4>情報・データ等の公表
(1)結果の公表
① 研究・調査結果の公表の際に、研究対象者個人や特定の集団が不利益、不快感を被る可能性がる。yes
② 研究遂行上の止むを得ない理由により、研究・調査結果の公表の際に、研究対象者に公表内容の全てを開示できない。yes
(2)プライバシー
① 研究・調査結果の公表の際に、個人が特定される可能性がある。yes


上記各項への判定(yes)につき、以下補足説明をします。次のとおりです。
<1>
(1)①については、現実に上記の 苦痛を感じた者がおり、被害をアピールし訴訟にまで及んでいるのですから、明らかです。
(1)②については、出演者が学術上の手法とは全く関係のないレッテル貼りによって批判されており、研究協力者の社会的評価を貶めることは明らかです。
(3)①については、商業プロパガンダ映画への転用という、真の目的が秘匿されています。
(4)③については、同映画に指導教官である中野教授自身が出演しており、研究対象者との間に利益相反関係があり得ます。
<2>
(1)①については、修了研究中において本人が特定されていることは明らかです。
<3>
(2)②については、商業作品に転用されており、当該研究終了後も廃棄されていません。
<4>
(1)①については、プロパガンダ映画として公表されており、研究対象者個人が不利益、不快感を蒙っている。
(1)②については、研究対象者にプロパガンダ映画への転用という公表内容が開示されていません。
(2)①については、個人が名指しで公表されています。

以上、1 箇所でも該当すれば「人を対象とする研究」の審査を受ける理由となるところ、9箇所にも亘って該当しています。

貴学にお尋ねします。出崎の卒業研究は「人を対象とする研究」の事前審査を受けるべき研究と考えられますか。<yes> または<no> でご回答ください。
また、<no>である場合には、上記9項目について、いずれにおいても該当しない理由をご教示下さい。

(5)「人を対象とする研究」においては、研究協力者に対してインフォームド・コンセントの徹底が義務付けられています。当該研究においては、そもそもが「人を対象とする研究」の審査を受けておらず、5名に対して要件に課されているようなインフォームド・コンセント自体が全く実施されておりません。審査を通過したと想定される場合でも、その研究条件にはインフォームド・コンセントの実施が含まれるはずですが、仮に当該研究について真実に基づいた説明が行われていた場合、5名は誰一人聞き取り調査に協力することはなかったはずです。インフォームド・コンセントには、「研究への参加は任意であり、参加に同意した場合であっても随時これを撤回できること」が研究協力者に認められた権利として確認されておりますが、5名がこの権利を行使し、インタビュー素材の撤回・破棄を要求した場合、貴学としていかなる対応を講じられるのか、お答えください。

(6)出崎の修了研究について、学術研究上の倫理規定に対する重大な逸脱があったと認識されますか。<yes>または<no>でご回答ください。<yes> の場合はその具体的な問題箇所をご指摘ください。 <no>である場合、今回の出崎の修了研究のような手法・手続きにおいて再び同様の研究が今後生じた場合でも、上智大学は全く問題なく、学術研究の正当な方法であると認容されますか。<yes> または<no>でご回答ください。

(7)出崎の修了研究を指導・監督する責にあった貴学の中野教授の指導責任について、重大な過誤があったと認識されますか。<yes> または<no>でご回答ください。<yes> の場合はその具体的な問題個所をご指摘ください。<no>である場合、今回の出崎の修了研究に対する指導・監督として再び同様の対応が指導教員によって繰り返されたとしても、上智大学は、学術研究上正当な指導であると認識されますか。<yes> または <no> でご回答ください。

(8)貴学の中野教授は、指導・監督の立場を超えて、本件修了研究の共同制作者としてこれに密接に関与しております。学術研究とは名ばかりのプロパガンダ映画を上智大学という信用度の高い学術研究機関の看板を利用した詐欺的手法によって製作したこと自体、貴学に社会的責任が発生すると考えます。貴学は、中野教授が貴学の社会的信用を騙って詐欺的手法によってプロパガンダ映画を製作したことを貴学の名誉と信用を傷つける行為であると認識されますか。<yes> または <no> でご回答ください。<no>である場合、今回と同様の手法で貴学の教員が、類似の作品を今後製作するようなことが再びあっても、貴学として容認されますか。<yes>または<no>でご回答下さい。

(9)最後に、貴学に要請したいことがあります。出崎が卒業プロジェクトとして大学院に提出した映像作品のコピーをご供与ください。

供与を求める理由ですが、5名は、貴学の大学院生である出崎に学術研究に資するため無償で協力したのですから、貴学には協力者に作品を見せる学術的・道義的義務があると考えるからです。なお、卒業制作と商業映画が別のものであることは、指導教官の中野晃一教授が4月19日に国会内で行った政治集会「安倍政治を終わらせよう! 4.19院内集会」において講演し「オリジナルカットのものが修士論文に代わる学位を取るための制作物」(A)であるとし、「その後、さらに編集やったり音楽入れたり」してつくった映画(B)を別のものとして区別して説明しています。この点は5名の認識とも一致しています。貴学にコピーの供与を求めているのは(A)の作品です。

 

4 結語

貴職らは、真理を探究する学問の府の責任ある立場にあられ、とりわけ「カトリシズムの精神に基づき、学術の中心として真理を探究し、文化の発展と人類の福祉に寄与する研究活動を行ってきた」ことを標榜する権威と実績のある上智大学の最高管理者として、今回の事案の重大性に鑑み、10月末日までに上記各質問に誠実に回答し、また、要請事項にも応じていただきたく、本書を以って要望する次第です。

また、ご参考までに別便にてご関係資料をお送りするとともに、求められれば、5名が直接事情を説明します。

なお、本「通告書」の2(5)で述べたとおり、本事案の被害者らが研究倫理上の不正行為に関する貴学の告発窓口に事の次第を申し出たにも関わらず、貴学の対応に真剣さと誠実さがうかがえませんでした。よって、小職らは、本問題が貴学の信用と名誉にかかる重大・深刻な事案であることに鑑み、本事案に関する情報を貴学の教授会構成員全員に告知することさらに貴学からの回答を含め所轄官庁たる文部科学大臣に事案の詳細を報告する予定であることを申し添えます。

草々

(別紙)代理人目録[省略]

【報告】「主戦場」訴訟第1回口頭弁論 2019.9.19

映画「主戦場」に抗議します!から「「主戦場」訴訟第1回口頭弁論報告」の記事を転載いたします。
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藤岡信勝

9月19日(木)午後2時から、東京地方裁判所第806号法廷で開かれました。

廷内は、傍聴席から向かって左側が原告席で、原告の山本優美子、藤岡信勝と代理人弁護士髙池勝彦ほか3人が座りました。右側の被告席には、被告の出崎は欠席で、映画配給会社東風の代表社員・木下繁貴と弁護士岩井信ほか4人が座りました。傍聴席はほぼ満員。大雑把にいうと、原告側が約30人、被告側が約10人という比率でした。どういうわけか、被告側の傍聴者は途中から数人、帰ってしまいました。

2時キッカリに裁判官が入廷。全員起立しました。中央が裁判長で、裁判長の左となりは男性、右となりは女性の陪審裁判官でした。

裁判長が口を開き、原告側の訴状と甲(原告側)証拠1~5が出ていること、被告の答弁書と乙(被告側)証拠1~2が出ていることを確認しました。

裁判長から、被告側に「この他に反論を出す予定はあるか」と尋ねました。それに対し岩井弁護士は、「答弁書で完結している。訴状に過不足なく答えているので、これ以上付け加えることはない」と答えました。

裁判長から原告側に、①答弁書への反論、②訴状で「追って主張する」と書かれている著作権に関わる法理論についての新たな主張の展開、の2点について、次回口頭弁論までに提出することを求めました。

ここで、原告側代理人の髙池弁護士が、映画のDVDを証拠として出すよう被告側に求めました。これに対し、被告側は「検討します」と答えました。荒木田弁護士が、「被告側に、出さないという選択肢はあるのか」と訊きました。それに対しては、「使われ方にいろいろあるので、検討します」と答えました。裁判長は、被告側に「検討して下さい」と言いました。

あとでの報告会では、被告側は、DVDを商業的に使わないことなどの条件を付けてくるのではないかとのことです。もし映画のDVDを出さなければ、原告側の主張が100パーセント通ることになります。

このあと、原告の山本優美子、藤岡信勝の両名が意見書を読み上げました。発言時間は両者ともキッカリ5分でした。それもそのはず、5分ということを事前に求められていて、時間を計って臨んでいました。

第2回口頭弁論は11月14日(木)午後2時で、法廷は変わる可能性もあるとのこと。原告の上記①②の文書は、10月30日までに、裁判所と被告側に送達することになりました。

2時25分、閉廷。終了後40分ほど、別室で報告会を行い活発な質疑がなされました。

傍聴者の感想を2件紹介します。

 

■ 佐藤和夫氏

慰安婦捏造映画主戦場訴訟第一回公判に行ってきました。

原告側から山本優美子さんと藤岡信勝先生が出崎氏の嘘により名誉毀損を受けたと上映の禁止と賠償金の請求を求めた。お二人共堂々と論点を明瞭に説明された。

傍聴席は大半が保守側、記者会見の時とは打って変わった状況だった。国内戦では言論、裁判とも負け続けていたので、出崎の映画は左翼側の溜飲を下げた。しかし表現の自由とか著作権とか言って目くらましをしても騙した事実は隠せない。旗色の悪さに左翼側の傍聴者も来づらいと思ったのだろう。

しかし朝日の北野記者、元北海道記者も傍聴しており、左翼側の我が方の情報収集には感心する。

11月14日、二回目の公判(正しくは民事では口頭弁論という-藤岡注記)がある。裁判は長期戦になるのでその間日本の映画館やアメリカの大学で放映されると言う。捏造映画が裁判中も放映されるのを止める為に仮処分の訴訟を起こすそうだ。(正確には検討中-藤岡注記)慰安婦歴史戦の本丸はアメリカである事が明らかになった。

 

■ 関野通夫氏

この問題については、藤岡先生や「発信する会」から詳細な説明がなされており、私が何か書く必要はありませんが、本日、第一回公判を傍聴し、今後もできる限り傍聴するつもりなので、特にかつて吉見義明対桜内文城の裁判公判をほとんど(籤に外れたとき以外)傍聴したので、特にその時との比較などレポートしてみたいと思います。

吉見教授が起こした裁判では、ほとんど常に、傍聴は籤にあたらねばできず、その分早く家を出るとか、くじに当たった篤志家に譲っていただけなければ傍聴できなかったが、今日は、くじ引きもなく、そのために並ぶ必要もなく806号法廷に入廷できました。

このことは何を言っているのでしょう。出崎と吉見の左翼の中における立ち位置が違うのでしょう。出崎を支持する組織的動きは日本ではあまりないのでしょうか。吉見教授は、それなりに人格的にも左翼の中で尊敬されていたのではないでしょうか。そういうものを出崎は持っていないのか、そのバックにいる中野教授もそれほどの勢力はないのか、あるいは出崎は、日本でより、アメリカでのほうがパワーがあるのかいずれかだと思いますが、今後も継続的に見守っていこうと考えています。

一方、出崎の基本的な狙いや作戦をできるだけ早く知る必要があります。普通なら、あれだけの詐欺行為をやれば訴えられるのは当然と考え、それでもよしと考えたのでしょうか。彼を裁判でやっつけることのほかに、出崎は建前上、慰安婦という虐げられた人を擁護するという正義を行っていることになっているのでしょうが、その男が、大勢の人を騙すという不義を行うという矛盾を強調すべきだと思います。

また、彼をアメリカで訴えられないかというようなことも頭に浮かびます。一般的に、アメリカでの損害賠償は、べらぼうに高いと理解していますが。

■ 原告 山本優美子が読み上げた意見書

私は、いわゆる慰安婦問題に取り組む市民団体「なでしこアクション」代表 山本優美子と申します。

慰安婦について世界中に広まった誤解を解き、日本と日本国民の名誉を守るために海外の慰安婦碑や像の設置反対運動、国連の人権委員会やユネスコにおいて慰安婦の真実や日本の立場をアピールする活動を続けてきました。

世界中に広まった誤解とは「慰安婦の強制連行、数20万人以上、性奴隷」です。これらがいずれも真実でないことは、日本政府の見解でもあります。

ところが、海外では、依然として「慰安婦はアジアのホロコースト」のプロパガンタが広がっています。その影響で、私たちが様々な資料を提示して、それが虚構であることを証明しても、「リビジョニスト、ナショナリスト、レイシスト、ファシスト」などと呼ばれることがあるのです。

例えば、私が2014年7月国連の人権委員会に参加した時、何と、国連側のスタッフから「リビジョニスト」と呼ばれました。また、2014年12月、サンフランシスコで講演した時は、プラカードを掲げた人たちから「ヤマモトユミコ レイシスト、ナショナリスト、出て行け」との罵声を浴びました。ニューヨーク市でも同じ様な経験をしました。

慰安婦強制連行説や性奴隷説を否定する立場の私たちは、海外では、このように不当に侮辱され、時には身の危険に晒されることもあるのです。

私が映画「主戦場」に登場するに至った経緯(いきさつ)を説明します。

私が役員の一人である「歴史の真実を求める世界連合会」という団体が、2016年5月23日、議員会館で米国グレンデール市慰安婦像撤去訴訟の報告会を開きました。当日、上智大学院生で「慰安婦の研究のために報告会のビデオ撮影をしたい」という出崎幹根氏が友人たちと一緒に撮影機材を持って参加し、私は彼らから挨拶されました。

報告会翌日、出崎氏から「件名:上智大学院の出崎幹根のドキュメンタリーインタビューご協力のお願い」のメールを受信しました。メールには丁寧な日本語で次のように書いてありました。

「私は日系アメリカ人で、現在上智大学で大学院生をしております」

「慰安婦問題をリサーチするにつれ、欧米のリベラルなメディアで読む情報よりも、問題は複雑であるということが分かりました。慰安婦の強制に関する証拠が欠落していることや、慰安婦の状況が一部の活動家や専門家が主張するほど悪くはなかったことを知りました。私は欧米メディアの情報を信じていたと認めざるを得ませんが、現在は、疑問を抱いています」

「大学院生として、私には、インタビューさせて頂く方々を、尊敬と公平さをもって紹介する倫理的義務があります」

「これは学術研究でもあるため、一定の学術的基準と許容点を満たさなければならず、偏ったジャーナリズム的なものになることはありません」

「公正性かつ中立性を守りながら、今回のドキュメンタリーを作成し、卒業プロジェクトとして大学に提出する予定です」

私は、出崎氏が在学したと同じ上智大学の卒業生です。海外からの留学生が多かったこともあり、日本で学ぶ学生を応援したい気持ちが強くありました。また、米国で慰安婦問題が広がる中、日系人である出崎氏が慰安婦問題を研究するなら協力したいと思ったのです。

私は、6月11日、母校上智大学四谷キャンパスの教室で2時間ほど出崎氏らのインタビューを受けました。

インタビューに際して、私は、承諾書に捺印しましたが、それは、当然、出崎氏がメールで説明した「学術研究の卒業プロジェクト」であると理解していました。よもや、街中の劇場で入場料を徴収して一般公開するような映画になるなどとは説明を受けませんでしたし、想像もしませんでした。

それから卒業プロジェクト完成の連絡もないまま、2年以上経った2018年9月30日、突如、出崎氏から「10月7日に釜山国際映画祭において公開」とのメール。次いで、2019年2月28日に「4月20日から東京・渋谷を皮切りに、全国で順次公開」とのメールを受信しました。

映画を見ました。「尊敬と公平さ」「公正性かつ中立性」などかけらもないものであることに心底驚きました。

映画は、先ず、冒頭で、保守系の人たちを画面いっぱい大きな文字で「右翼」「ナショナリスト」「歴史修正主義者」「歴史否定主義者」とレッテルを貼ることから始ります。終盤で今度は、私たちを「人種差別主義者、性差別主義者、ファシスト」と罵るのです

もし上智大学院生の卒業プロジェクトでなかったなら、もし一般公開される商業映画であることを知っていたなら、もし「主戦場」のシナリオを知っていたなら、私は、出崎氏のインタビューに協力することなど絶対にありませんでした。なぜなら、冒頭で述べたように、慰安婦の強制連行や性奴隷説を否定する立場の私たちは、特に海外では一方的に酷いレッテルを貼られ、罵られ、時に身の危険を感じることもあるからです。

このような映像が、堂々とドキュメンタリーと称する商業映画となり国内外で一般公開されつづけて良いものでしょうか。既にこれまで公開された間の私たちの精神的苦痛、名誉と尊厳への損害は計り知れません。

私はこの映画の一般公開の即刻中止を求めます。

以上、私は、裁判所の良識を信じて私の意見陳述を終えます。

■ 原告 藤岡信勝が読み上げた意見書

(1)私は、約40年間、北海道教育大学、東京大学、拓殖大学に奉職し、研究と教育に携わって来た者です。専攻は教育学です。現在は一切の職を退いております。

(2)日本で慰安婦問題がテレビを含めメディアで広く取り上げられるようになったのは、1991年の12月でした。

当時、私は文部省派遣の在外研究員としてアメリカにおりましたが1992年8月に帰国してからこの問題を調べました。

すると、秦郁彦という歴史学者が、奴隷狩りが行われたという韓国の済州島で現地調査をしたところ、誰一人そんなことは見たことも聞いたこともないと言っていたことを知りました。

また、西岡力という韓国研究者は、元慰安婦の女性からの聞き取り調査などによって、日本の官憲による強制連行を矛盾無く証言した者はただの一人もいないことを突き止めました。

慰安婦問題とは、日本から補償金を取るためと、日本人が悪逆非道であると世界に印象づけることに利益を感じる勢力によって、日本叩きの目的で捏造された問題であることがわかりました。

今では、日本国内の慰安婦論争は決着がつきました。

(3)2016年9月9日、私は上智大学大学院生・出崎幹根のインタビューを受けました。

この件に関して二つの論点があります。

第一は、インタビューの目的が学術研究だったことです。

私がインタビューに応じた最大の理由は、目的が「学術研究」であったからです。

被告・出崎は、「卒業制作として、他の学生と共にビデオドキュメンタリーを製作しておりまして、ドキュメンタリーは『歴史認識の国際化』をテーマとしています」と書いていました。

私も大学で学生の卒業論文や修士論文を指導していた時には、学外の多くの方々にお世話になりました。

学問研究の世界は一種の共同体で、特に学生の研究にはお互いに協力してやらねばならない、という規範があります。

私は被告・出崎に何の疑念を持ちませんでしたが、ただ一度だけ、強い不審の念をいだいた瞬間があります。

それは、ビデオ撮影が終わって、被告・出崎から承諾書にサインしてほしいと切り出された時です。

こちらは善意で協力しているのになんで承諾書が必要なのか、と腹立たしい思いをしたのです。

「そういう文書にサインするのは私の趣味に合わない」と言ってサインを拒否し、出崎らを追い返しました。

ところが、『ニューズウィーク日本版』6月25日号の朴順梨のレポートでデザキは、承諾書・合意書には「学術プロジェクトとは一切書かれていない」とシラを切りました。

これは詐欺的行為の自白に等しいものです。

アプローチの段階では、学術研究であるとして商業映画であることを徹底的に隠蔽し、映画を公開するときは、それが大学院の卒業制作であることをあくまで否定する。

これはデザキの企画が初めから協力者をペテンにかけて騙すために、巧妙に仕掛けたものだったことを疑問の余地なく示しています。

(4)第二の論点は、私に無断で商業映画に映像・音声を使用することは「合意書」違反であるということです。

指導教官・中野晃一教授から私のサインを貰わなければ研究を始めることはできないと言われた被告・出崎は、藤木俊一氏と交わした「合意書」を送ってきて、これで何とかサインしてほしいと懇願しました。

藤木氏の書き直した「合意書」は、取材される側の権利も書かれていました。

それで私は妥協して、合意書にサインしました。

出崎の行為は合意書の5・6・8項に違反しますが、ここでは、8項のみ問題にしてみます。

8項には、「甲[デザキ]は、撮影・収録した映像・写真・音声を、撮影時の文脈から離れて不当に使用したり、他の映画等の作成に使用することがないことに同意する」と書かれています。

私は、被告・出崎の「卒業制作」には協力しましたが、商業映画に使用してよいという許可を与えたことは一切ありません。

私の許可なく、無断で、私のインタビュー映像等を自分の商業映画に使ったデザキは、「他の映画等の作成に使用することがないことに同意する」という合意書の禁止規定に明白に違反しています。

(5)学術研究は人を傷つけるためにあるものではありません。

まして、学術研究を騙って善意の協力者を騙すこのような行為は決して許されるものではありません。

映画の上映地域の拡大に比例して、私の精神的苦痛、人権侵害の被害は増大しています。

裁判所の賢明なご判断が得られますことを信じております。